Disc Review

Who Believes in Angels? / Elton John & Brandi Carlile (Interscope)

天使はどこに/エルトン・ジョン&ブランディ・カーライル

ぼくがブランディ・カーライルに本格的にハマったのは2009年。サード・アルバム『ギヴ・アップ・ザ・ゴースト』が出たときで。アルバムのラスト、ウクレレ1本をバックに歌っていた「オー・ディア」って曲に惹かれてのことだったのだけれど。

そのアルバムに「キャロライン」って曲が入っていて。そこになんとエルトン・ジョンが客演していた。へー、面白いつながりだなとそのときは意外に思ったものです。

そのあとだいぶたってから、2021年、今度はエルトンのほうが『ロンクダウン・セッション』の「シンプル・シングズ」って曲にブランディを招いて。さらに、2024年にはDisney+のドキュメンタリー『ネヴァー・トゥー・レイト』の主題歌でも共演。やはり2024年、エルトンがガーシュウィン・アワードを受賞した際は式典にブランディがゲスト出演してパフォーマンスした。

その授賞式でのブランディのMCも印象深くて。

「エルトン・ジョンとバーニー・トーピンが作った音楽がなければ、私は自分で曲など書かなかったかもしれません。楽器さえ演奏していなかったかも。彼らの作品に出会ったのは1993年ごろでした 私は人生で初めて自分だけのものを見つけた気がしました。両親は二人のことが、ごめんなさい、あまり好きではなかったみたい。でも、当時11歳だった私にとってエルトンはワイルドで、とんでもなく、危険なほど素晴らしい人でした。私は彼らが作り上げた、それまで聞いたこともなかった美しい物語に魅了されました。その音楽が私にキーボードやギターに触れさせ、私の人生を言葉と世界観で満たしてくれました」

…的な?

そのステージでブランディは「マッドマン・アクロス・ザ・ウォーター」と「スカイライン・ピジョン」を披露。これまた個人的な話ではありますが、ぼくがいちばん好きなエルトンの曲は「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード』に収められていた「スウィート・ペインテッド・レディ」で、2番目に好きなのが「スカイライン・ピジョン」。なもんで、このブランディの選曲は本当にうれしかったものです。

と、そんな二人がさらに本格タッグ。なんでもエルトンとブランディ、デュエット・アルバムを作ろうという話になって。当初はアリソン・クラウスとロバート・プラントみたいなアルバムにしようと盛り上がっていたら、1週間後、エルトンが、いや、ぼくたちはユーリズミックスみたいな存在なんだと言い出して、さらに数日後、今度は、いやいや、バディ・ホリーとパッツィ・クラインみたいになろう、と…(笑)。

いずれにせよ、とにかく二人は盛り上がって、「シンプル・シングズ」や『ネヴァー・トゥー・レイト』も手がけていたアンドリュー・ワット(ギター)をプロデューサー/ソングライターに迎え、もちろんバーニー・トーピンにも声をかけて、ジョシュ・クリングホッファー(キーボード)とチャド・スミス(ドラム)というレッド・ホット・チリ・ペッパーズ人脈、およびピノ・パラディーノ(ベース)ら強力な顔ぶれを従えて、新作アルバムを作っちゃいましたー。

全曲、エルトン、バーニー、ブランディ、アンドリュー・ワット連名によるオリジナル。制作ドキュメンタリー的なものもYouTubeで公開されているのだけれど、それ見ると、エルトンの視力障害とかが進行する中でのレコーディングだったようで、いろいろ波乱含み。でも、ブランディをはじめとする仲間たちの辛抱強さもあって、まじ、いいアルバムが完成しました。

カントリー方面で活躍するブランディだけに、もしかしたらアルバムとしてはエルトンの『タンブルウィード・コネクション』的なものになるのかなと短絡的に思っていたら、そういうわけでもなく。もっとエルトンの、そしてブランディの持ち味全般がうまく散りばめられた深く豊かな仕上がり。

冒頭から「ザ・ローズ・オヴ・ローラ・ニーロ」とか、「リトル・リチャーズ・バイブル」とか、自身の重要なルーツを再確認するような幕開けで。泣けてくる。多様性を否定する古臭い価値観へ腕尽くで逆行させようとする現米政権のアホな動きに雄々しくノーを突きつける「スウィング・フォー・ザ・フェンシズ」が続いて、そこから歌詞がより一層辛辣にアップデートされた「ネヴァー・トゥー・レイト」へ。

このアルバム、LPのA面、B面と同じようにCDもディスク1、ディスク2に分かれているのだけれど。A面ラストはブランディが中心になって書かれたと思われる「ユー・ウィズアウト・ミー」って曲。これがまた、前述した「オー・ディア」に通じるような仕上がりで。これはウクレレではなく、ラバー・ブリッジのギターを使って弾き語りされているみたいだけど。個人的に思いきりぐっときて。

そのあと、B面トップがリード・トラックとして先行リリースされてからずっとハマりっぱなしの「フー・ビリーヴズ・イン・エンジェル?」。ここまででもう完璧にノックアウトです。この曲、途中の展開とか、もろに「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」を彷彿させるのだけれど、ここでチャド・スミスは、ナイジェル・オルソンが当時「グッバイ…」を録音したときに使ったドラム・セットを叩いているのだとか。すげー。

ほんと、しびれましたよ。ブランディもごきげんだし、エルトンも健在だし。“ロデオ・クイーン”とか、いかにもバーニーっぽい表現が飛び出す歌詞にも泣ける。

ちなみに、この曲に関しては少々意訳ぎみの日本語詞がオフィシャルに流通しているようだけど。まあ、その良し悪しはともあれ、これ、その昔、1970年代にも落流鳥だったか誰だったかによる意訳っぽい訳詞が歌詞カードに掲載されていて首を傾げるばかりだったエルトンの伝統なのかな…と(笑)。複雑な気分になっちゃったりしてます。

「フー・ビリーヴズ…」に顔を出す“死んだ後、魂を取り戻すのにいくらかかる?”というフレーズをはじめ、ラストを飾る「ホエン・ジス・オールド・ワールド・イズ・ダン・ウィズ・ミー」の“ぼくを星々の中に散らしてくれ…”ってフレーズとか。ある種“終活”的な表現もアルバムのそこかしこに見受けられはするのだけれど。

いやいや、エルトン、ライヴ活動からは身を引いたとはいえ、まだまだいけるはず。ブランディもジョニ・ミッチェルさんに続いてきっちりお世話を果たしているし。続編も期待させてくれます。

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