バック・オヴ・アワー・マインズ/ケイレン&アスリン
またバンドキャンプで出くわした人たち。ケイレンとアスリンのナッシュ夫妻。
あんまり詳しいことは知らないのだけれど。ジョージア州アセンズのインディ・シーンではそれなりに有名な存在らしい。もともとはポンデロサとかディーガとか、いくつかのバンド/ユニットで活動をともにしながら、地元のレーベルからアルバムを出したり、クラブに出たり、小規模ではあるもののヨーロッパ・ツアーとかもしたり。そうこうするうちに夫婦になっちゃった、と。
以前のバンドでのアルバムとか聞いてみると、アンビエント感満点のベッドルーム・ロックっぽいアプローチを披露していたり、エレクトロニックっぽい音像に挑んでいたり、ずいぶんとコンテンポラリーかつ多彩な模索を続けていたようなのだけれど。
今回、ケイレン&アスリンとストレートに名乗っての初アルバムでは、なんというか、こう、アメリカーナな感じというか、そういうのもうまく取り入れていて。オープニング・チューンの「ヘザー」って曲では、ゆったり広がる音像の背景で、いきなりペダル・スティールがメロウなコード感を提供していたり。ふくよかなコーラス・ハーモニーが聞かれたり。続く「ラヴィング・ユー・スティル」ではアコギのアルペジオにレゾネーター・ギターが絡んだり。
なんだか、面白い。サイトに載っていたアスリンさんのメッセージによれば、収められている曲は新しく書き下ろしたものもあれば、10年前に書かれたものもあり。そういう意味で、少なくとも作風に関してはこれまでの、インディ・ロック然とした音像のもとで披露されていた持ち味と基本的には変わらないのだろうけど。ただ、それをどういう音に包み込んで提示してくるかでずいぶんと印象は違う。
で、ぼくには今回のアルバムの音像はばっちりでした。歌詞の詳しい内容まではまだ分け入ることができていないのだけれど、前出、アスリンからのメッセージによると、恋に落ちること、別れること、夫婦として結ばれること、家を離れること、そして帰ってくること…。そうした旅のすべてを描いた1枚なのだとか。なるほど。そんな物語を綴るには、いわゆるアメリカーナ的な、ナチュラルでアコースティカルな音作りは絶好だったのかも。
逆に言うと、普通、アメリカーナ系の作品がカントリー寄りになりがちなところ、この人は曲作りそのものがカントリーっぽいわけではないから、そっち方面の感触がものすごく希薄で。そこが面白い。2012年にケイレン・ナッシュがソロ名義で出したきわめてパーソナルなアルバムにいちばん空気感が近いかも。
ケイレンがギターとホーン・アレンジ。アスリンがキーボードとストリングス・アレンジ。「ガールフレンド」って曲ではバンジョーとホーン・セクションを交錯させながら独特の音世界を演出しているし、「ドント・テイク・イット・アウト・オン・ミー」では洗練されたコード進行のもと、控えめなホーン・セクション、爽やかなコーラス・ハーモニー、モーグっぽいシンセ、ワウ・ギター、ラテン・パーカッションなどを絶妙に共存させてみせるし。「カリフォルニア」で徐々にストリングスが加わってくる感じとかも素敵だし。
隙間を活かした、けっして欲ばりすぎない音の積み方には好感度たっぷり。なんか、また素敵な拾いものしちゃった気分です。