ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア/ノラ・ジョーンズ
5月アタマにリリースが予告されていながら、これまた新型コロナ禍で発売が延期になっていたノラ・ジョーンズの新作アルバム。ほぼひと月遅れで出ました。
間に“#songofthemoment”(ソング・オヴ・ザ・モーメント)と名付けられた配信シングル用レコーディング・セッションで録音された音源7曲で構成された企画盤EP『ビギン・アゲイン』や、プス・ン・ブーツの新作『シスター』なども挟まれてはいたものの、単独名義でのオリジナル・フル・アルバムとしては2016年の『デイ・ブレイクス』以来。待望の1枚といったところか。
とはいえ、実はノラ自身、近年あまりニュー・アルバムを作るモードにはなれなかったようで。それもあって2018年、ダヴマン名義でのソロ・プロジェクトでもおなじみのトーマス・バートレットや、ブライアン・ブレイド(ドラム)とクリストファー・トーマス(ベース)らジャズ系の名手たち、そしてウィルコのジェフ・トゥイーディーなど、様々なクリエイターと組んで多彩なコラボレーション・シングルをそれぞれ単発で連続リリース。その成果をとりあえず寄せ集めたのが『ビギン・アゲイン』だったわけだけれど。
とはいえ、そうやって体験した様々なセッションの中、あれこれこぼれ落ちた楽曲が数々あって。そのあたりのラフ・ミックスを自身のiPhoneにぶちこんで、犬を散歩させながら聞いたりしていたら、それら、いったんはボツにした曲たちがだんだん好きになってきて。頭から離れなくなったのだとか。
「そこには何かシュールリアルなつながりがあることに気づいたの。まるで熱に浮かされているとき、神と、悪魔と、心と、この国と、この惑星と、そして自分との間に揺らめくどこかで起きている夢を見ているような気分になって…」
というのが、ノラ自身の弁。なんだか、よくわからないけど(笑)。とにかく、それらをアルバムにまとめてみる気になった、と。そういうことらしい。なにはともあれ、めでたし。
というわけで、やはり今回も『ビギン・アゲイン』のとき同様、曲が書かれたセッションごとに少しずつ色合いの違う作品群が共存する1枚に仕上がっている。プロデュースは基本的にノラ自身。全体のサウンドの基調を成しているのはブライアン・ブレイドと構築したらしきアコースティカルかつジャジーな音世界ではあるけれど、バックアップしているミュージシャンは固定メンバーでなく、セッションによって様々だ。
曲調としては乾いたオルタナ・カントリーふうがあったり、ハモンドとトゥワンギー・ギターが舞うファンキーものがあったり、ブリージーにシェイクするライト・グルーヴものがあったり、ジャズふうがあったり、室内楽ふうがあったり…。それでいて、どれもが見事にノラ・ジョーンズ。そこがすごいな。やっぱ、この人独特の柔らかくスモーキーな歌声には、どんな音楽性をも包み込んでしまう抗いがたい魅力がある。
先日ストリーミングなどで公開された、なんとも鎮静したムードのニュー・シングル「トライン・トゥ・キープ・イット・トゥゲザー」など2曲がボーナス追加されたデラックス・エディションもあり。日本盤はそっちの仕様です。DVD付きもあります。