ザ・ムーン・イズ・アン・アッシュトレイ/ミス・テス
もう15年選手。ザ・トークバックスを従えて、とびきりごきげんなロックンロール、ブルース、カントリー、R&B、ジャズを聞かせ続けてくれているオールド・スクール・レディ、ミス・テスがニュー・アルバムをリリースした。
アラバマ・シェイクス、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフ、ベンジャミン・ブッカーなどとの仕事で知られるアンドリジャ・トキックと、長年のバンドメイト、トーマス・ブライアン・イートン、そしてミス・テス本人の共同プロデュース。ヴィンテージのRCAマイクロフォン、チューブ・アンプ、古いキーボード、テープ・マシーンなども駆使しつつ、しかし単なるレトロ志向ではない、きっちりコンテンポラリーな感触もたたえた傑作アルバムに仕上げている。
ギターのイートン以外のメンバーは曲によって微妙に変わる。なので、まあ、実質的にはミス・テスとイートンの鉄壁のコンビネーションのもとで制作された1枚ということになりそうだ。もう10年以上前、初めてこの人を聞いたときは、“モダン・ヴィンテージ”とか、確かそんなキーワードのもと、ジャズ寄りのテイストをたたえた趣味性の高いアルバムを出していたのだけれど。その後、痛快なロックンロール風味、渋いブルース風味、躍動的なカントリー風味なども強めつつ、いよいよさらに知名度を高めそうな傑作の誕生へと至った感じ。
今はナッシュヴィル在住のミス・テスだけど。かつて15年ほど前、ボストンに住んでいたときはレイク・ストリート・ダイヴのレイチェル・プライスとルームメイトだったとか。一緒にバンド活動もしていたらしい。ということで、この新作にもレイチェルさんがゲスト参加。デュエットでレイジーかつファンキーな「トゥルー・フラッド」って曲を披露している。先行シングルとして去年リリースされていたので、すでに聞いたという方も多いかも。
音楽仲間でもあるデイヴ・ゴドフスキーのちょっぴり皮肉な未発表曲をカヴァーしたというアルバムのオープニング・チューン「ザ・トゥルース・イズ」に続いて、そのレイチェル・プライスとのデュエットが入っていて。次がボブ・ディランの「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」をニック・ロウがカヴァーしたみたいなテイストのカントリー・ロックンロール「ギャンブリン・マン」。
歌詞も味わい深いアルバム・タイトル曲「ザ・ムーン・イズ・アン・アッシュトレイ」は、夜空に美しく輝くロマンティックなお月さまもそばに寄って眺めてみれば…みたいな、いろいろな裏側を暗示するシニカルな1曲だ。続く「アイ・ウォナ・ビー・ア・カウボーイ」は、もうその名の通り、ヨーデルも交えたオールド・カントリー。
次が、ペダル・スティールをフィーチャーしたしっとり系カントリー・バラードかと思いきや、途中からオルガンとファズ・ギターがダイナミックに切り込んでくる「ユー・ドント・ノウ・ハウ・トゥ・ラヴ・ミー」。トワンギー・ギターが大活躍のロックンロール「テイク・イット・イージー」。ブルージーで、クールで、ちょっとだけサイケデリックで、かつなまめかしい「シュガーベイブ」。ロマンティックなミディアム・チューン「ワン・リトル・キス」。
ここからラスト3曲が他ソングライターとの共作曲。まずは元ストレイ・バーズのオリヴァー・クレイヴンと共作/デュエットした切ない「ジーズ・ブルース」。1970年代のシンガー・ソングライターのアルバムに入っていた佳曲、みたいな手触りだ。次がギターのイートンと共作したメロディックな「ヒューマン・ビーイング」。で、オーラス、ショーン・ステイプルズとの共作による、ちょっぴりノスタルジックなバラード「リヴァーボート・ソング」で聞いてるぼくらは夢の中へ…。
ロマンティックで、ノスタルジックで、でもどことなくシニカル。1930年代のアーチトップ・ギターを抱えて歌うミス・テスの意味深なウィンクに、もう骨抜きです。
普通のところだとストリーミング/ダウンロードしかないけれど、彼女のウェブストアに行くとフィジカルも売ってます。アナログ、欲しいかも…。