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Disc Review

Starting Over / Chris Stapleton (Mercury Nashville)

スターティング・オーヴァー/クリス・ステイプルトン

『スターティング・オーヴァー』というタイトルながら、別に音楽的な意味で何かをやり直そうとしているわけではなく、サウンド的にはこれまでの持ち味をそのままアップグレードした感じのソロ4作目。2015年にアルバム『トラヴェラー』をバカ当たりさせてシーンに衝撃を与えた、あの、まっすぐに往年の“アメリカン・ロック!”な感触を今回もまっすぐ、雄々しく、盤面に刻み込んだ感じの新作だ。

ともすれば単にレトロなものとして安易に片付けられてしまいそうな“ロック”のフォーマットを、今の時代にもう一度輝かせたい、みたいな。そういう意味でのスターティング・オーヴァーなのか。2017年にラスベガスで起きた悪夢のような銃乱射事件に対するレスポンス的な楽曲もあるので、そういう意味での再スタートのニュアンスも含まれているのかも。

プロデュースは今回もステイプルトン本人とデイヴ・コブ。マイク・キャンベルやベンモント・テンチらハートブレイカーズ人脈もがっつり協力。ペダル・スティールの名手、ポール・フランクリンもフィーチャーされている。

ステイプルトン単独で、あるいはデイヴ・コブ、マイク・キャンベル、アル・アンダーソンらとの共作で書き下ろされたオリジナル曲群が基本。そこにガイ・クラークのカヴァーが2曲(「ウォリー・B・ゴーン」「オールド・フレンズ」)と、ジョン・フォガティのカヴァーが1曲(「ジョイ・オヴ・マイ・ライフ」)が加えられている。カヴァーのセンスが渋い。

でも、ガイ・クラークっぽさもジョン・フォガティっぽさも、むしろ自作曲のほうに充満しているように感じられたりするところがまた面白い。ヘイリー・ウィッターズが今年アタマにリリースしたアルバム『ザ・ドリーム』で一足先に披露ずみだった「デヴィル・オールウェイズ・メイド・ミー・シンク・トゥワイス」の自演ヴァージョンとか、もう、強烈にスワンピーなアレンジになっていて、最高な時期のCCRそのものだもの。やばい。ということで、オリジナル、カヴァー関係なく、とにかくあの手この手のルーツィな要素を取り揃え、素材を活かす形でストレートにアプローチした、と。そんな感じの痛快な1枚。

それらCCR感、ガイ・クラーク感の他にも、ウェイロン・ジェニングズ感、ZZトップ感、ボブ・シーガー感、ザ・バンド感、トニー・ジョー・ホワイト感、オールマン・ブラザーズ感、ニール・ヤング〜パール・ジャム〜ニルヴァーナ感、そしてもちろんトム・ペティ感などが見え隠れ。カントリー・ロック、カントリー・ソウル、サザン・ロック、スワンプ・ロック、ブルース・ロック、グランジ、ゴスペル、フォークなどの不変の美学をそのまま背負い、独特のしゃがれ声とアウトロー的感性でそれらジャンルの境界をとことん曖昧にしながら踏み越えていく。ほんとこの人、頼もしい限り。

かといって、じゃ、ステイプルトンがただただノスタルジックに過去へと埋没しているのかと言うと、けっしてそんなことはなく。ラストを飾る「ナッシュヴィル・テネシー」って曲では、自らのルーツに対する敬意を軽んじ、時代の浮ついた表層に惑わされて右往左往しがちな音楽ビジネスの象徴としてのナッシュヴィルに別れを告げる歌詞が聞けたりして。ぐっとくる。

“俺がいなくなっても寂しくないだろ?/君は先に進むことに慣れているからね/これからもときどき君の前を通り過ぎることがあると思うけど、もう顔もわからないに違いない/君も俺の中に残っているものを何ひとつ手に入れられない/俺が知る限り、君がこれからもよろしくやっていくことを願う時がやってきたのさ/さよなら、ナッシュヴィル、テネシー…”

いろいろな人にとってのいろいろな“今”があって、それぞれがそれぞれのやり方で“今”を生きている、ということ。音楽スタイルの違いだけで新しいとか古いとか、安易に決めつけちゃいかんですね。

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