ADVERTISEMENT

Disc Review

At San Quentin (Legacy Edition) / Johnny Cash (Columbia/Legacy)

アット・サン・クエンティン(レガシー・エディション)/ジョニー・キャッシュ

ガッツ、スンちゃん、谷……でクリーンアップなんてことはないだろうな。おー、恐ろしい。個人的には、二岡、慎之助、由伸の3、4、5番を希望します。無理か。

まあ、いいや。ジョニー・キャッシュだ、ジョニー・キャッシュ。去年から今年にかけては、ジョニー・キャッシュ、日本でもけっこうきましたね。自伝映画の日本公開もあったし、DVDも出たし、オリジナル・アルバムの再発CDも日本で初めて出たし、2枚組の未発表音源集も出たし、遺作も出たし、全米1位になったし、CRTでもついにジョニー・キャッシュ・ナイトが実現したし……。

で、その締めとして登場した強力な一発がこれ。キャッシュにとって2枚目の刑務所ライヴ盤にあたる『アット・サンクエンティン』の、正真正銘、コンプリート版ボックス・セットだ。このライヴ・アルバム、ジョニー・キャッシュにとっては大ヒットした代表作のひとつであるにもかかわらず、再発フォーマットが今ひとつ落ち着かなかったというか。ややこしいことになっていた。

オリジナルのLPは69年リリース。このときの収録曲は短いものや同じ曲も含めて10曲。その後70年代後半に、68年の『アット・フォルサム・プリズン』と抱き合わせになった2枚組廉価LPが出て。それを80年代だったか90年代だったか、今度はCD1枚にまとめたものが出て。そのときは、もともと2バージョン入っていた「サン・クエンティン」のうちひとつが省かれちゃっていて。

個人的には初めて買ったジョニー・キャッシュのシングル盤「スーという名の少年」が入っていたLPなので、けっこう思い入れが強かったのだけれど。なかなかいい形でCDが出ず、淋しく思っていたら。2000年、収録トラックを18に増やしたエクスパンデッド・エディションが『アット・サン・クエンティン(ザ・コンプリート1969コンサート)』というタイトルでレガシーから出た。コンプリートと銘打っているのだから、完全版なのだろうと思って当時大いに盛り上がったものだけれど。

でも、いろいろ調べてみたら、これでも全然コンプリートじゃないことがわかった。まいった。実はこのとき、ジョニー・キャッシュは通常のツアー同様のパッケージ・ショー形式でサン・クエンティン刑務所を訪れていて。カール・パーキンス、カーター・ファミリー、スタットラー・ブラザーズが同行。彼らはキャッシュのバック・バンドとともに演奏/コーラスをサポートすると同時に、それぞれ自分たちの持ち歌を披露していた。その辺の音源は軒並み2000年のエクスパンデッド盤には入っていなくて。おまけに、ジョニー・キャッシュのヴォーカル曲もメドレー、デュエット含めて4曲分カットされていた。

なんか悲劇の1枚になっちゃっていたわけだけれど。でも、そんな悲劇もここまでです。この箱で完璧。ジョニー・キャッシュの未発表パフォーマンスはもちろん、帯同アーティストたちの楽曲も、すべて洗いざらいCD2枚にぶちこまれている。今回こそ本当に曲順入れ替えなしの全編完全収録だ。しかも、イギリスのグラナダTV制作の1時間もののドキュメンタリー『ジョニー・キャッシュ・イン・サン・クエンティン』を収めたDVD付き! ぼくはアメリカ制作のドキュメンタリー映像のほうは持っていたけれど、こっちは持っていなかったので、もううれしくてうれしくて。ライヴの模様はもちろん、刑務所内の様子とか、囚人を含む関係者へのインタビューとかも興味深い。

前述した通り、キャッシュ自作の「サン・クエンティン」という曲が収められているのだが、これは囚人の視点で同刑務所のことを描いたもの。“サン・クエンティンよ、朽ち果てて地獄火で焼かれてしまえ。お前のすべてが嫌いだ”と歌われる。囚人の前で、ですよ。囚人たち、暴動一歩手前ですよ。かと思えば、おなじみのスピリチュアル「ピース・イン・ザ・ヴァリー」を敬虔に歌い綴ってみたり。ボブ・ディラン作の「ウォンテッド・マン」なんてやばいタイトルの曲をぶちかましてみたり。ゴスペル・スタンダード「ジ・オールド・アカウント・ワズ・セトルド・ロング・アゴー」を、出演者全員とともにノリノリのコール&レスポンスで聞かせたり。もちろん“俺は男を撃った。そいつが死ぬところを見るために”という衝撃的な歌詞でおなじみの代表曲「フォルサム・プリズン・ブルース」も歌われているし。父親から“スー”という女性名を付けられてしまったがためにつらい人生を送ることになった少年が、姿をくらましていた父親を見つけてボコボコにするノヴェルティ・シングル「スーという名の少年」も入っているし。

聖と邪がぐるんぐるんに渦巻くパフォーマンス。犯罪をテーマに据えた曲を囚人たちの前で平然と歌うやばさも、神への深い思いを淡々と歌い綴る敬虔さも、すべてが等しくジョニー・キャッシュ。そんな事実を改めて、否応なく思い知らせてくれる強力な箱です。国内盤も出る予定なので、DVDに字幕が欲しい方はしばしお待ちを。またライナー書かせていただくことになってます。がんばろー。

-Disc Review
-,

© 2020 Kenta Hagiwara