Disc Review

Jaime / Brittany Howard (ATO)

ジェイミー/ブリタニー・ハワード

もう各所で多くの人が盛り上がっているようなので、今さらこのブログで取り上げるまでもないかとは思いますが。個人的にも待ちに待っていた1枚なので、とりあえずピックアップしてみました。

アラバマ・シェイクスのフロントウーマン、ブリタニー・ハワードのソロ・アルバム。シェイクス以外にも、サンダービッチとかバミューダ・トライアングルとか、それぞれ特定のコンセプトを掲げた別バンドでの活動はあったけれど、ソロ名義ではこれが初の1枚。

というわけで、バンドでは発揮しづらい、思い切りパーソナルな手触りが特に歌詞の面で炸裂している。米南部アラバマ州アセンズ生まれ。黒人の父。白人の母。貧困。性的マイノリティ。差別。KKKやネオナチが跋扈する地で、押し寄せる数々のプレッシャーとストレスのもと、それらに毅然と立ち向かったり、押しつぶされ、うちひしがれたりしながら生きてきた彼女が、改めて自分自身の心を見つめ直しつつ紡ぎ上げた全11曲だ。

たぶん同性婚パートナーである最愛のジェシ・ラフサーへの思いを描いたのであろうラヴ・ソングもある。過去を赤裸々に綴った曲もある。未来に向けて激しいメッセージを放つ曲もある。きわめて内省的な曲もある。そのどれもがスピリチュアル。胸に迫ってくる。重いけれど、癒やしの感覚にも満ちている。

これもまたあちこちで触れられていることだが、アルバム・タイトルの“ジェイミー”というのは、ブリタニーにピアノを弾くことや、詩の書き方を教えてくれたお姉さんの名前なのだとか。眼球内の悪性腫瘍が原因で若くしてこの世を去った彼女にアルバムを捧げ、自らと真摯に向き合う大切さを教えてくれたことへの感謝の意を表わしているのだろう。

サウンド的には、2015年に出たシェイクスのセカンド・アルバム『サウンド&カラー』で披露してみせた冒険心を引き継いだ仕上がり。シェイクスのバンド仲間であるザック・コックレル(ベース)と欠かせないサポート・メンバーのポール・ホートン(キーボード)に加えて、ネイト・スミス(ドラム)、ロバート・グラスパー(キーボード)、ラリー・ゴールディングス(キーボード)、ロイド・ブキャナン(キーボード)、ラヴィニア・メイヤー(ハープ)らが参加。

エクスペリメンタルっぽかったり、アンビエントっぽかったりする音像も積極的に取り入れられている。歪みやノイズまで貪欲に取り込みながら、しかしけっして盛りすぎにならない、詰め込みすぎにならない、空間と奥行きを活かした音処理がなされていて。なかなかに精緻。なかなかにスリリング。

そういう意味では、グラスパーとネイト・スミスのジャム・セッションから発展した“スポークン・ワード・ブレイクダウン”とでも呼ぶべき「13thセンチュリー・メタル」とか、かなり意識高い系の先行公開曲「ヒストリー・リピーツ」とかで聞くことができる今様なかっこよさこそが、音的には本作の目玉なのかもしれない。

そういう、歪み方向に作り込んだ音世界の面白さもわかる。こうでないと聞く気がしないリスナー層がいることも理解できる。レコーディングの世界では原音忠実である必要などまるでないことも当然だし。

そのあたりのもろもろは重々承知のうえ。でも、シェイクスのアルバムで言うと、冒険心に満ち満ちたセカンドより、ブリタニーのソウルフルな歌声を今どき超珍しいほど簡素で木訥とした南部ロック・サウンドでまっすぐ支えたファースト派であるぼくとしては、もうちょいオーソドックスな、ひねりのないアプローチの楽曲のほうに心惹かれてしまうのだった。

たとえば、以前このブログでも取り上げた、往年のニュー・ソウルっぽい味を明解に継承する先行公開ナンバー「ステイ・ハイ」とか。他の曲に比べてあまり極端な音処理が施されていない感じのベースとドラムによる強力に太いボトムのグルーヴ、アコースティック・ギターの無骨なカッティング、無垢なトイ・ピアノみたいな音色、深いゴスペル・コーラスなどが緩やかに絡み合い、それらをバックにブリタニーのソウルフルな歌声が縦横に舞うこの曲に、ぼくの胸はぐっとつかまれる。

あるいは、ブリタニーの弾き語りによる「ショート・アンド・スウィート」とか。これも好き。たまらん。しびれる。いずれにせよ、歌詞も音も絶品。こちらが思わずたじろぐほど、すごすぎる表現者。やっぱただ者じゃないです、彼女。

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