Disc Review

Wayback Machine / Mark Hummel (Electro-Fi Records)

ウェイバック・マシーン/マーク・ハメル

ウェイバック・マシーン…ね。

過去へのマシーン。ご存じの通り、そういう名称の検索サイトもあって、すでに存在しない往年のホームページのキャッシュとかを表示して見せてくれたりもするけれど。まさにそういうアルバムかも。50〜60年代のエレクトリック・シカゴ・ブルースから、30〜40年代のブルーバード・レコードの美学まで、ブルースの伝統をこの21世紀に再構築してみせる1枚だ。

本作の主役、マーク・ハメルはブルース・ファンにはおなじみのブルース・ハープ、つまりハーモニカ・プレイヤー。1955年生まれだからもちろんベテランさんなわけだけれど。白人ながら黒人ブルースに魅せられて、若いころからその道へとどっぷりハマっていったこの人の眼差しは常に先人たちが成し遂げた偉業に向けられていて。その辺はプロとしての活動を開始した1970年代からずっと変わらない。1980年代にはブルース・サヴァイヴァーを結成してブラウニー・マクギー、デイヴ・マイヤーズなどのレコーディングに参加したり、ローウェル・フルソンやジミー・ロジャースらのツアー・バンドを務めたり…。

1985年には自らもソロ・デビュー。以降、ソロで、ユニットで、多くのアルバムをリリースしながら西海岸を拠点に着実に活動を続けている。近年はJ・ガイルズ・バンドのマジック・ディックや、ウォーのリー・オスカー、ファビュラス・サンダーバーズのキム・ウィルソンなど、幅広いハーモニカ・プレイヤーと“ブルース・ハーモニカ・ブロウアウト”なるシリーズを続けていたりも。

で、今回の新作。マーク・ハメルのハーモニカとヴォーカルをがっちりサポートする顔ぶれがまた渋い。こちらも白人ながらシカゴ・ブルースの伝統を継承する第一人者でもあるビリー・フリンがギター。有能なレコーディング・エンジニア/プロデューサー/ギタリストでもあるノルウェー出身のキッド・アンダースンがベース。そして、イースト・ベイ周辺でジューク・ジョイント系バレルハウス・ブルースの美学を今なお追究し続けるザ・ディープ・ベースメント・シェイカーズ(ピアノのアーロン・ハマーマンとウォッシュボード/パーカッションのデイヴ・イーグルのデュオ)。

さらに、ロニー・アールやデューク・ロビラードとの共演作でもおなじみ、偉大なサン・ハウスとも縁があるというジョー・ベアードが終盤3曲にゲスト参加していて。超渋いアコースティック・ギターとディープなヴォーカルを聞かせている。ソロで披露する自作曲「セイ・ユー・ウィル」もすごいけれど、やはりハメルのブルース・ハープとのデュオによるご存じ「ミーン・オールド・フリスコ」とか、バンドで聞かせるエディ・ボイドの「ファイヴ・ロング・イヤーズ」とか、強力だ。やばい。

録音はカリフォルニア州サンノゼにあるキッド・アンダースンのグリースランド・スタジオで。ギミックなし。エフェクトなし。スタンド・プレイなし。SPレコードっぽい音にEQしたら昔の音源だと信じてしまいそうな仕上がり。でも、それがSPレコードみたいな、埃っぽいくすんだ音質ではなく、今のクリアな音で楽しめるわけで。これはたまりません。

変わり続けることもポップ音楽のシーンでは大事なことかもしれないけれど、変わらずに踏ん張り続けることも同じくらい大切なのだ、雄々しいことなのだ、と、改めて思い知らせてくれる新作です。

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