ハイアー・グラウンド/ジョン・リーゲン
ニュージャージー出身のシンガー・ソングライター、ジョン・リーゲンの新作。確か9月だったか10月だったかに出ていたにもかかわらず、その時期ついつい紹介しそびれていて。タイミング外したなぁ…と、ちょっと心残りだったのだけれど。なんと、明日、11月20日にめでたく日本語解説・歌詞対訳付きの国内盤がリリースされることになった。よかった。タイミング、取り戻した(笑)。ということで、遅ればせながら本ブログでも取り上げてさせていただきます。
静かな傑作、という風情で、けっこう日本でも評判がよかった前作『ストップ・タイム』から4年。まあ、この人の場合、もともとリリースのペースはゆったりしたものだったので、こんなものかなとも思ったのだけれど、実は結婚して息子さんが生まれたこともあって、それをきっかけに近隣のクラブでのちょっとしたライヴ以外、自らパフォーマーとしての音楽活動はやめてしまっていたらしい。今は米『キーボード・マガジン』の編集者が本業だとか。
が、そんなリーゲンさん、去年ジャミロクワイのライヴを見に行った際、バックステージでジャミロのキーボード奏者、マット・ジョンソンと意気投合。再び自身の音楽制作への情熱に火が付き、ジョンソンと組んで新たなソロ・アルバム作りに取りかかった。ニューヨーク本拠のジョン・リーゲンとロンドン本拠のマット・ジョンソンが、ネットを通じてデータをやりとりしながらの今様プリプロが行われ、めでたく完成に至った、と。
ジョン・リーゲンというと、ランディ・ニューマンとかブルース・ホーンズビーとかトム・ウェイツとかを想起させるシニカルで、リリカルで、ちょっぴりジャジーなピアノ弾き語り系シンガー・ソングライターという感じで受け止めていらっしゃる方も多いと思うけれど、ジョンソンとのコラボレーションがいい刺激を生み出したか、これまで以上に多彩かつ柔軟なクロスオーヴァー感覚を発揮した仕上がりになっている。素晴らしい。
というわけで、マット・ジョンソンがプロデュース。アンディ・サマーズ(ポリス)、ニック・ローズ(デュラン・デュラン)、ベンモント・テンチ(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ)、チャック・リーヴェル(オールマン・ブラザーズ・バンド、ローリング・ストーンズなど)、ラリー・クレイン(ジョニ・ミッチェル、ボブ・ディランなど)、ジェリー・マロッタ(オーリアンズ、ピーター・ゲイブリエルなど)、ジョージ・マリネリ(ボニー・レイット、ブルース・ホーンズビーなど)、デイヴィ・ファラハー(エルヴィス・コステロなど)、ティム・ルフェーブル(デヴィッド・ボウイ、テデスキ・トラックス・バンドなど)、キース・カーロック(スティーリー・ダン、スティングなど)ら、リーゲンとジョンソン、二人の人脈を駆使した豪華なミュージシャンたちが参加している。
といっても、彼らも特にひとつのスタジオに勢ぞろいするとかではなく、データで演奏のやりとりをする形でのレコーディングだったようだけれど、さすが腕利き揃い。アナログ感覚満載のごきげんな1枚が出来あがった。
ジャジーなムードをたたえた心地よいソウル感覚みなぎるアルバムのオープニング・チューン「ワイド・アウェイク」とか、ニューヨークのストリート・ノイズをバックにファンキーかつブルージーなリーゲンのピアノが躍動するインストゥルメンタル「イーストサイド・ブルース」とか、強烈なニューオーリンズR&Bグルーヴが最高の「エヴリ・ナイト」とか、聞きもの多し。
子供が生まれたことでそれまで迷いに満ちていた自分の人生がどれだけ充実したものへと変わったかを描いたアルバム表題曲や、昔の音楽の記憶なども呼び起こしつつ、これまでの自分の人生を振り返り奥さまに対する真摯な想いを綴る「ザ・ラスト・トゥ・ゴー」など、家族への愛情をテーマにした楽曲もある。
“我々がやらかしてしまったことのツケを/子供たちが払わねばならなくなる前に/全てが手遅れになってしまう前に/時を戻してリセットしなければ…”と、待ったなしの環境問題などを念頭に切実に訴える「ビフォア」とか、金がすべてを支配する世の中にまっすぐ疑念を投げかける「フー・ケアズ・イフ・エヴリバディ・エルス・ノウズ」のように社会的メッセージを放つ曲もある。
近所のクラブだけではない、本格的なコンサート・ツアーも再開されたようだ。がんばってほしいです。こんだけの曲を作ってパフォームできる人なんだから。応援してます、心から。