デザート・ダヴ/ミカエラ・アン
ロドニー・クロウェルやパンチ・ブラザーズのノーム・ピケルニーなどのゲスト参加でも話題になった前アルバム『ブライト・ライツ・アンド・ザ・フェイム』から3年。ミカエラ・アンの新作が届いた。Yep Rocレコードへの移籍第一弾。2011年の自主制作盤も含めればこれが4作目ということになる。
この人、もともとはブルックリンの生まれで。ジャズとかも正式に学んでいたらしいのだけれど、そんな中でオールド・タイム・カントリーの魅力に目覚めて本拠地をナッシュヴィルへ移して活動。おかげで、どこか俯瞰した眼差しのようなものがあって。そうしたクールな手触りが活かされた独自のアメリカーナ感覚が最大の魅力。その感じは今回の新作でも存分に発揮されている。
自ら“サウス・カリフォルニア・カントリー”の担い手を自称するサム・アウトローと、やはりカリフォルニアのアメリカーナ系インディ・ロック・バンド、デルタ・スピリットのケリー・ウィンリッチがプロデュース。ということで、アルバムの録音はナッシュヴィルではなくカリフォルニア州サン・クレメンテで。
オープニング・チューン「バイ・アワー・デザイン」はケイシー・マスグレイヴスやマーゴ・プライスとの仕事でも知られるクリスティン・ウェバーによるストリングスというかフィドルのアンサンブルがもたらすジミー・ウェッブ的な広がりが印象的な1曲。続く「ワン・ハート」はどこかオルタナというかインディ・ロックっぽいムードもたたえたギターの響きに彩られたドラマチックな世界。ドリーミーで、どこか紗がかかったようでいて、でも確かな存在感を放つ音像が新鮮だ。クリス・アイザックあたりにも通じるミステリアスな手触り。
と、そういう新味もあるけれど。あとはこれまで同様のカントリー・ロック系。ちょっと60年代半ばのフォーク・ロックっぽいムードとか、60年代後半のポップ・カントリー調の匂いが漂うのは、やはりカリフォルニア録音だからだろうか。かと思えば「トゥー・フールズ」のような、もうロレッタ・リンというか、ジョージ・ジョーンズというか、そういう真っ向からのホンキー・トンク・バラードが飛び出してくるのもこれまで通り。
ミカエラさんのピュアで繊細な歌声を基調に、自然体で様々な時代のカントリー周辺の音作りを縦横に行き来しながら構築された1枚という感じだ。アルバムの締めはシンプルなソロ弾き語り「ビー・イージー」。ミカエラさんの優れた楽曲と、巧みなパフォーマンスと、優れたプロデュース・ワークとがいいバランスで絡み合った佳盤です。来月、国内盤も出ます。
ピンクのヴァイナルLPもYep Rocのオンライン・ショップで売ってるんだよなぁ。それ、かわいいんだよなぁ…。