Disc Review

Welcome to the Vault / Steve Miller Band (Capitol)

ウェルカム・トゥ・ザ・ヴォルト/スティーヴ・ミラー・バンド

ノーベル化学賞とかの発表があって、受賞者の記者会見とか見ていると毎度思うのだけれど。何か大好きな研究とかに自分の時間のすべてをつぎ込んで、熱くのめり込んで、そのことについて一所懸命語っている人の姿を見ていると、専門用語とかがたくさん飛び出してきてよく内容はわからないものの、なんだかこっちまで楽しくなってくるというか。わくわくしてくるというか。

情熱とか、愛とかって、やっぱ大切なんだなぁと思うのだ。

大好きな音楽にまっすぐ取り組んでいる人とかもそう。自分の好きな音楽のジャンルなりフォーマットなりめがけてまっすぐ情熱を注ぎ込んでいるミュージシャンを見ると、なんだか聞いているこちらまで胸が躍る。そんなことを改めて感じたアンソロジーでした。ロックンロールの殿堂入りを果たしている優れたパフォーマーであり、最高のギタリストであり、多くのヒットを生み出したシンガー・ソングライターであり、頼もしいバンド・リーダーであるスティーヴ・ミラーの半世紀以上に及ぶ歩みをたどった3CD+DVDのセット『ウェルカム・トゥ・ザ・ヴォルト』。

タイトル通り、保管庫から掘り起こされた音源と映像の雨あられ。1950年代の音源も入っているけれど、基本的にはスティーヴ・ミラー・バンドを率いてデビューを果たした1960年代半ば以降のもろもろが一気に集大成されている。3枚のCDに収められた全52曲の中には、ごくごく普通の代表的ヒット「アブラカダブラ」「ザ・ジョーカー」「スペース・カウボーイ」とかもしれっと入っているのだけれど。半数以上の38曲が別ヴァージョン、ライヴ・ヴァージョンなどのレア・トラック。うち5曲はスティーヴ・ミラー・バンドで録音しておきながらお蔵入りしていた完全未発表曲。すごいお宝発掘アンソロジーだ。

で、これ聞きながら、ああ、この人、白人だけれど、本当にブルースが大好きなんだなぁ…と改めて思い知って。ちょっと胸が熱くなったのでした。ディスク1の冒頭、いきなり10分超の「ブルース・ウィズ・ア・フィーリング」でスタート。1960年代からライヴでの重要なレパートリーだったリトル・ウォルター作品のカヴァーで。これまでいろいろなヴァージョンに接してきたけれど、今回収録された1969年、サンフランシスコのフィルモア・ウェストでの演奏はなかなか。強力なスロー・ブルース・パフォーマンスを楽しめる。

続いて、1969年のアルバム『ユア・セイヴィング・グレイス』に収録されていた「ドント・レット・ノーバディ・ターン・ユー・アラウンド」の別ヴァージョンがあって、1967年、彼らの存在を一躍有名にしたモンタレー・ポップ・フェスティヴァル出演時の「スーパー・シャッフル」があって…。ブルージーでソウルフルなノッケ3曲で思いきり盛り上がってしまった。

で、ラスト。ディスク3のラストひとつ前には、なんと1951年、スティーヴ・ミラーのおうちの居間でプライベート録音されたという偉大なテキサス・ブルースマン、Tボーン・ウォーカーが歌う「ロリー・ルー」が入っている。Tボーンがこの曲が公式にレコーディングするのは翌1952年のことだから、この音源だけでも超貴重。なんでもスティーヴ・ミラーの父親ジョージはジャズやブルースの熱烈なファンで、よく自宅で生演奏を録音したりしていたのだそうだ。レス・ポールとも友達で、そんな父のすすめでスティーヴも幼いころからギターを弾くようになったという。というわけで、そんなTボーンの音源に続いて、自らもギターを弾きブルースを歌うようになったスティーヴ・ミラーが、65年後の2016年に録音した「ロリー・リー」のカヴァーが披露されて、このアンソロジーは幕を閉じる。

この最後の音源は、近年スティーヴ・ミラーがブルース関連のキュレーターをつとめているジャズ・アット・リンカーン・センターで2016年に催されたTボーン・ウォーカーへのトリビュート・コンサート“Tボーン・ウォーカー〜ア・ブリッジ・フロム・ブルース・トゥ・ジャズ”でライヴ録音されたもの。ジミー・ヴォーンがゲスト・ギタリストとして参加している。このジャズ・アット・リンカーン・センターでの成果としては、やはりジミー・ヴォーンとともにライヴ録音された「テイク・ザ・マネー・アンド・ラン」のビッグ・バンド・ヴァージョンなんてのも入っていて。これもかっこよかった。

と、そんな具合にブルースまみれのオープニングとエンディング。それに挟まれて、スティーヴ・ミラー・バンドならではのサイケでポップでドリーミーでプログレッシヴなブルース・ロックがぶわーっと並んでいる、と。そういうアンソロジー。個人的には、1969年の『ブレイヴ・ニュー・ワールド』の収録曲「カウ・カウ」とか「シーズン」のアコースティック・ヴァージョンとか、1970年の『ナンバー5』の収録曲「ゴーイング・トゥ・メキシコ」の別ヴァージョンとか、初期のレア音源が楽しかったけれど。もちろん大ヒット連発期、1970年代半ばの別テイク群も充実。

あ、1970年代半ばの音源としては、もう紛失したとか言われたりもしていた「ザッツ・ザ・ウェイ・イッツ・ガット・トゥ・ビー」にしびれました。

で、映像のほうには1967年のモンタレー・ポップ・フェスティヴァルとか、1970年のフィルモア・ウェストとか、1973年のテレビ番組『ドン・カーシュナーズ・ロック・コンサート』とか、1990年のレス・ポールとの共演とか、2011年のオースティン・シティ・リミッツとか…。ローリング・ストーン誌のデヴィッド・フリック執筆のライナーを含むブックレットも豪華です。ピックもついてます。もったいなくて使えないけど…。

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