パラ・ミ/クコ
ベッドルーム・ポップ・シーン期待の新星、チカーノ系シンガー・ソングライター“クコ”ことオマー・バノスがついにメジャーから初のフル・アルバムをリリースした。
現在21歳。確か18歳だったか17歳だったか、そのころにリリースした「ラヴァー・イズ・ア・デイ」って曲がなんか気になって。その後、ぼくもこの人のこと追っかけながら聞くようになった。ビーチ・ボーイズを生んだ街、カリフォルニア州ホーソーンの出身ってのも気に入った。
2年くらい前に出た「ロ・ケ・シエント」って曲もすっげえよくて。へたくそなのに妙に味わい深いトランペットも吹いたりしていて。気になる気になる。なんとも独特のふにゃ〜っとしたメロウ・ポップというか。ソングライターとしてのセンスも秀逸。てことで、本格的フル・アルバムの登場を心底待ち望んでおりました。
もちろん、異国に住むぼくみたいな音楽ファンがそんなふうに気にしているくらいなのだから、特に地元ロサンゼルス周辺のチカーノ系ティーンエイジャーたちの間ではこの人のことが気になって仕方ないファンがどんどん増えていったらしく。今や絶大な人気だとか。本メジャー・デビュー盤のお披露目コンサートのチケット2万枚をほんの24時間で完売させたというから、すごい。実に今っぽい脱力系アイドルってところでしょうか。
のっけのスポークン・イントロの最後、“Where is this fool going?”、つまり、このバカはどこへ行く? という自虐的な問いを投げかけつつアルバムはスタートするのだけれど。特にどこか明確な目的地などないまま、ゆらゆら夢うつつの世界をたゆたいながらアルバムは淡々と進んでいくのでありました。ピッチを揺らしたシンセとかが構築する不安定かつ浮遊感満点の音像。ドリーミー。ドラッギー。ハマるわ、これ…。
移民問題とかで揺れる世相にあって、特にハードなメッセージを放つこともなく、愛の周りをけっして離れないラテン系ならでは持ち味を貫いているところも逆にぐっとくる。センチミエントがすべてだという、これはこれで確かなメッセージかも。
前述「ロ・ケ・シエント」的な決定的キラー・トラックに欠ける気もしなくはないけど、先行シングルとして出ていた「ボサ・ノ・セ」(ひと月ほど前、こちらにビデオクリップ乗せました)や「ヒドロコドン」(ビデオクリップに出てくる『よく飛ぶ紙飛行機』って本が気になる…)をはじめ、「ベスト・フレンド」とか、インタールードのインスト「ブロウキー・ザ・ペア」とか、なんとなく全部が仲良くいい感じに並んでいて、そういう飛び抜けた楽曲がないってのもまたこの人っぽい。
とにかく今後が楽しみな個性です。