ウェイク・アップ・アゲイン/エレーニ・マンデル
イナラ・ジョージ、ベッキー・スターク、アレックス・リリーと組んだスーパー・ガール・グループ、ザ・リヴィング・シスターズの一員としてもおなじみ、ロサンゼルス本拠のベテラン・シンガー・ソングライター、エレーニ・マンデルによる11作目のスタジオ・アルバムだ。
なんでも彼女は、刑務所に収監された囚人たちに楽器を提供するなどして社会復帰の手助けをしようとジョー・ストラマーやビリー・ブラッグが立ち上げた団体“ジェイル・ギター・ドアーズ”の活動に賛同し、ここ2年ほどカリフォルニアの女性刑務所で作曲を教えるワークショップを行なっているそうで。今回のアルバムは、そうした活動の中で彼女が感じたもろもろを反映した仕上がりだ。
冒頭を飾る「サーカムスタンス」という曲など、いまだ自らの罪を認めることができない二人の囚人に触発されたものだとか。“私がやったんじゃない/状況がそうさせたんだ…”という歌詞に描かれる意味合いでの“サーカムスタンス”。
ラストを締めくくるアルバム・タイトル・チューンも、重罪で40年も投獄され続けている老囚人の心情を描いたものらしい。“過ちを犯したのは私の運命? もしチャンスがあったら私はもう一度起き上がるの? 起き上がることができるの?”という切実な思いがエレーニ・マンデルの柔らかい歌声で淡々と綴られていく。
それら2曲に挟まれるようにして、様々な苦難を経験した女性を主人公に据えた物語がひとつ、またひとつと紡がれる。幸せだった過去、つらかった過去、両方が交錯する中、後悔の念と閉塞感に押しつぶされるばかりの日々。けれども、それは監獄という特殊な世界にのみ存在するものなのか、すべての人の心にも存在しているのでは…? と、エレーニ・マンデルは静かにぼくたちに問いかけているようだ。
とか言うと、全編、なんだか暗くて重い内容のアルバムなのかなと感じるけれど。実はそんなことはけっしてなく。
サウンド的には、もう15年ほど彼女をバックアップし続けているツアー・バンドのリズム隊を核とするシンプルかつ的確な演奏に支えられながら、けっこう幅広く、奥深い音世界を構築している。ドリーミーなようでいて、どこか凶悪さが見え隠れするギターのリヴァーブ感とかも妙にやばくて面白いし。言葉を交わすことができなくなった家族となんとかつながりたいという切ない願いを無線の交信にたとえた「ホワッツ・ユア・ハンドル?」のオルタナ感も印象的。かと思うと、厳しい母親に対する“許し”を歌う「オー・マザー」とかでは、かなり軽快でポップなアプローチがなされていたりして。それが逆に胸に沁みたり…。
こちらも長い付き合いになるシェルドン・ゴンバーグ(ベン・ハーパー、ピーター・ケイス、リッキー・リー・ジョーンズらとの仕事でもおなじみ)のプロデュースも安定感たっぷりです。