Disc Review

Dino & Sembello / Dino & Sembello (Big Pink/Vivid)

DinoSembello

ディノ&センベロ/ディノ&センベロ

鉄壁のMORレーベルとして60年代に発足したA&Mレコードの歴史は、つまるところ、プロデューサーとソングライターの歴史だ。もともとプロデューサー志向の強いミュージシャンだったハーブ・アルパートとジェリー・モスが会社を立ち上げ、やがて同好の士でもあるトミー・リピューマやセルジオ・メンデスを迎え入れヒットを量産。さらに、バート・バカラックやトミー・ボイス&ボビー・ハートら、ソングライターとして裏方で活躍していた者たちとアーティスト契約を結んだ。ジャズ界きっての名プロデューサー、クリード・テイラーを100万ドルという当時破格の契約金でヴァーヴから引き抜き、彼の指示のもとでクリード・テイラー・イシュー=CTIシリーズをスタートさせた。奇才プロデューサー、フィル・スペクターの再起を本腰を入れてバックアップした。ルー・アドラーのオード・レコードの配給を引き受け、キャロル・キングを見事カムバックさせた。

そんな流れを受けて、A&Mは73年、史上初のブルー・アイド・ソウル・ブラザーとも呼ばれる最強のソングライター/プロデューサー・チーム、ジェリー・リーバー&マイク・ストーラーと契約。白人ながら黒人コミュニティで生活し、50年代から多くのR&Bヒットを生み出してきた彼らをレーベルの傘下に置き、スティーラーズ・ホイール、エルキー・ブルックスなどにごきげんなヒット曲を提供することになった。この時期のことを、かつて来日したマイク・ストーラーに直接訊ねてみたところ——

「ぼくたちはすでにレコード会社や音楽出版社のオーナーだったから、必然的に若手を育てなければならなかったんだ。でも、ビジネスを離れても、そうした若手と交友を持つことは楽しかったよ」

と、答えてくれたっけ。そんな時期、リーバー&ストーラーの下で唯一のアルバムをリリースしたアーティストが、今日ピックアップするディノ&センベロだ。フィラデルフィアを本拠とするラルフ・ディノとジョン・センベロによるブルー・アイド・ソウル・デュオ。名字からも連想できるかもしれないが、ジョン・センベロのほうはやがて80年代に「マニアック」のヒットを飛ばすことになるマイケル・センベロの兄弟だ。

60年代末から70年代初頭にかけて、ラヴィン・スプーンフル、タートルズ、ティム・ハーディンらに曲を提供したり、自らデュオでシングルをリリースしたり、地道に活動していたが、やがてリーバー&ストーラーの耳にとまり、74年、A&Mからのアルバム・デビューが決まった。それが本作『ディノ&センベロ』。

このアルバムがごきげんなのだ。大好きだった。ネヴィル・ブラザーズやニコレッタ・ラーソンが取り上げた「ダンシン・ジョーンズ」やエルキー・ブルックスの「パールズ・ア・シンガー」、ビリー・エクスタインの「ザ・ベスト・シング」などのオリジナル・ヴァージョンを含む1枚。大傑作とまでは言わないものの、かなりの名盤。ゴードン・エドワーズ、リック・マロッタ、ジョン・トロペイ、アラン・ルービンら名うてのセッションマンたちがバックアップ。ちょっとカントリー・ソウル風味も漂う強力なブルー・アイド・ソウル盤だ。全曲、ディノ、センベロ、リーバー、ストーラーの共作とクレジットされているが、基本的にはディノとセンベロの作品だろう。

去年の10月ごろ、韓国のマニアックな再発レーベル“ビッグ・ピンク”が驚愕の世界初CD化を実現。それが先月末に日本でも出た。ということで、ここでピックアップしているわけですが。アナログLP試聴会のようなイベントがある際、なかなかCD化が実現しない作品ということで、ずいぶん前に紹介したロッド・マッケンのアルバム『A Boy Named Charlie Brown』とともに必ず持っていく盤だったのだけれど。これからはあんまり珍しくなくなっちゃいましたねー。うれしいような、寂しいような…。いや、うれしいよ(笑)。

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