サンキュー、ネクスト/アリアナ・グランデ
なんか大変な人生を歩んでいるなぁ、と思う。例のマンチェスターでの自爆テロ巻き込まれ事件はもちろん、PTSD問題、かつて恋人だったマック・ミラーの他界、新たなフィアンセとの婚約破棄、日本語のタトゥーに関する一部SNSアカウントの陰湿な炎上騒ぎ、演出への疑念を表明するためのグラミー授賞式出演拒否など、もう、激動。そんな中、大いに売れまくった前作『スウィートナー』から、ほんの半年というブランクを経て、新作アルバムが急遽登場した。
日本向け国内盤の歌詞対訳が待ち合わないほど突然のリリース決定だったようで。極秘も極秘。ずいぶんとこっそりレコーディングを続けていたのだろう。もっと長期間にわたって前作を売り続けることはもちろん可能だったわけだし、普通なら絶対そうするだろうという状況下、きわめて短いスパンでの新作リリース。つまり、そうするしかなかったということだ。このスピード感で新作を制作する必要があったということ。
この人はそういう人なのかな。持ち味は全然違うけれど、エリック・クラプトンあたりに近いというか。自らの苦境や逆境を音楽で乗り越えるタイプ。『スウィートナー』というアルバムが自身のPTSDを克服するために絶対必要だったように、この新作はいくつもの悲しい“別れ”を吹っ切って、彼女が次の段階へと踏み出すために絶対必要な1枚だったのだろう。そういう思いで接してみると、先行で大ヒットを記録した「サンキュー、ネクスト」や「イマジン」などを核に構成された本作の表情がより魅力的に届く。前作に比べるとちょっと地味というか、淡々としているというか、薄めというか、バックトラックもどこか未完成っぽく響いたりはするのだけれど、それが妙に味わい深い。むしろ彼女の胸の内の強さのようなものをじわじわ匂い立たせる結果になっているようで。けっこう“来る”。
本作の場合、基本的には失ってしまったものたちに寂しげな眼差しを送る曲が多いものの、そこにはそうした悲しみや苦しみを乗り越えようとするアリアナの意思が感じられるし。盗作問題なども巻き起こしつつこれまた大ヒット中の「7リングズ」のように、成功者ならではの空虚さのようなものをあえて自虐的にえぐり出した曲もあるし。何もそこまで…と思わせるくらい表現者としてさらけ出している感もあり。その辺をめぐって賛否が分かれるのかもしれないけれど。ぼくは好きです。全面支持。
昨日の朝、アリアナが出演拒否した第61回グラミー賞の授賞式を見ていて、でも、どのアーティストもかなり確かな姿勢でメッセージを放っていて、ああ、またそういうことが必要な時代がやってきたのかなと感じた。ここではアリアナが主張していた通り、ありきたりなヒット・メドレーではなく、「7リングズ」を歌うほうがよかったんじゃないかなぁ…と思いましたです。