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Disc Review

Ray: Original Soundtrack / Ray Charles (Rhino)

レイ:オリジナル・サウンドトラック/レイ・チャールズ

ブライアン、帰国。楽しい1週間だったなぁ。

つーか、ぼくにとっては能地と一緒に去年の2月、ロンドンでのSMiLEツアー初演を見てからちょうど1年。忘れもしない1969年、中学生のときにビーチ・ボーイズの魅力に本格的にのめり込んでから35年以上の歳月を過ごしてきたわけだけど。そんなビーチ・ボーイズ・ファン人生の中で、間違いなくピークとなった1年でした。能地も彼女のホームページで書いていたけれど、ぼくも気持ちは同じ。ブライアンのコンサートのこと、『SMiLE』のことについては誰とも話したくないというか。特に実際にライヴを見なかった人とは話したくない。

通じないから。ほんとに。今回も1月30、31日に東京公演があって。翌日1日おいて、2日に名古屋、3日に大阪……ってスケジュールだったもんで。全公演追いかけたとはいえ、2月1日がぽっかり空いていて。となると、そこにいろいろ仕事のスケジュールが入っちゃうわけで。これが失敗。まあ、仕事で行った先々の人が社交辞令っぽく「ブライアン、どうでした?」と訊いてくれて。それはうれしいっちゃうれしいのだけれど。でも、どんなに素晴らしいコンサートだったかをその人に対していくら力説しようとしても、カラぶっちゃうんだよなぁ。むなしい。以前もこのホームページで書いたように、自分が何ひとつ、あの素晴らしい、魔法のようなコンサートの空気感を言葉で伝えきれないもどかしさ。

ことブライアンのライヴに関しては、その場を実際に共有した者どうしで目を見交わしながらうなずき合うしかないのかも。魔法だもの。なので、ぼくはブライアンのコンサート評ってのを基本的に全部断ってきていて。今回だけはその禁を破って、朝日新聞に評を書かせていただいたけれど。読み返してみたら、案の定、全然冷静じゃない文章になっちゃってたなぁ(笑)。失礼しました。

去年のロンドン公演とニューヨーク公演に関しては、見ることができなかった日本のファンが多いだろうということで、簡単なレポートみたいなものを書いたけれど、今回はみなさん実際にライヴを体験なさったわけで。となると、もう何を語る必要があるでしょう。お互い目を見交わしつつうなずき合いましょう。

というわけで。見た人にしか通じない話をしましょう。この1年、何度もブライアンのライヴを体験して。当然のようにソングライターとしてのブライアンの才能の豊かさと奥深さにさらなるノックアウトを食らいつつ。しかし同時に、ヴォーカリストとしての……というか、表現者としてのブライアンの素養にも、改めて心を打たれたものだ。ストーリーテラーとしてのブライアンというか。けっこうブライアン、ライヴで歌詞を崩すでしょ。同じ内容を別の表現で歌ったり。それが妙によくて。たとえばジェームス・テイラーとか、あの辺の語り上手なシンガー・ソングライターとシンクロする魅力を感じさせてくれる。いや、むしろフランク・シナトラとかトニー・ベネットとかに近いか。

99年の初来日公演での「キャロライン・ノー」あたりを筆頭に、ライヴ・シーンへ復帰後のブライアンはいろいろな曲で、そういう、パフォーマーとしての柔軟な表現を聞かせてくれたものだ。この1年の間にぼくが実際に体験した中で特に印象に残ったのは、ニューヨークでの「ラヴ・アンド・マーシー」かな。以前、ニューヨーク公演を見たあとにも書いたことだけれど、あの夜、ブライアンは「ラヴ・アンド・マーシー」の2番のアタマを、"I am lyin' in my room and the news comes on T.V." と現在形で歌った。多くの人が傷ついていることを、まさに今起こっている出来事としてぼくたちに届けてきた。今回の大阪でも、今度は3番、"Oh the lonliness in this world, well it's just not fair" の部分を "Some people are rich, some people are poor, well it's just not fair" みたいな感じで歌っていたし。「ユー・アー(ワー?)・マイ・サンシャイン」でのちょっとした歌詞のインプロヴィゼーションも楽しかった。あと、国際フォーラムでだったか、名古屋でだったか、誰かに壊された君の心のかけらを拾い集める……と歌われるカヴァー曲「アイ・ウォナ・ビー・アラウンド」のあと、「ワークショップ」に入る直前、電気ドリルを顔の横に掲げたブライアンが "We're mending the broken heart" みたいなひとことを挟み込んでいて。曲の意味が一気に明解になったものだ。

歌詞を替えて歌うだけでなく、身振りも、ね(笑)。これも重要。特に一連の『SMiLE』の曲の場合、ヴァン・ダイク・パークスの歌詞だけ見ていると、なんとも難解で、理解しにくかったりもするのだが。ステージ上でのブライアンの不可思議でかわいらしい身振りとともに体験すると、意味がすーっと入ってきたりする。これもまた同じ、パフォーマーとしてのブライアンの才能なんじゃないかと思う。この味は年輪を重ねたブライアンでなければ出せないものなのかも。そう思うと、60歳を超えたブライアンが今なおパフォーマンスを続けていてくれて本当によかったと泣けてくる。

そうそう。これはまた別の話になるけれど。大阪公演での「サーファー・ガール」もびっくりだったね。サビの部分、ブライアンのソロで歌われるパートで違う歌詞が聞こえてきて。これ、英米でもときどき登場するようだけれど。88年のソロ・アルバム『ブライアン・ウィルソン』を制作していたとき、「サーファー・ガール」の再録音ってのも予定されていて。そのときにユージーン・ランディの監督下、新たに書き直された歌詞らしい。切ないティーンエイジ・フレイヴァーあふれるオリジナル・ヴァージョンとはがらり変わった、より精神的な、「ラヴ・アンド・マーシー」にも通じるような内容なのだけれど。そういう、ブライアンの油断ならないパフォーマーぶりは実に楽しい。あとでダリアンに教えてもらったところによると、こんな歌詞です。

God shines down, His love and mercy
On those in need tonight
Because songs know where they're going
Everywhere they go...

ほんと、ブライアンのこと好きでいられて、よかった。グラミー獲っちゃえ!

ちなみに、この怒濤のブライアン来日週間中の個人的ハイライト日は、1月31日でした。29日、ブライアンが渋谷でサイン会している間、ダリアンをゲストに迎えてガール・グループの曲をかけまくりながらぼくのFM番組を録音した日も楽しかったけれど。31日は、ダリアンとネルソンの希望で西新宿のいけないレコード屋巡り。健'zの二人でエスコートさせてもらいました(笑)。その後、サウンドチェックのために彼らが国際フォーラムに向かったあと、開演まで時間があるので健一と二人で新宿でうなぎ茶漬け食って、そこからわが地元、巣鴨に移動。二人でとげぬき地蔵にお参りして、健'zの健やかな発展(笑)をお願いしたところで、たまたま自宅からちょうど出かけようとしていた能地と合流。巣鴨のマクドナルドで音楽談義で盛り上がってから、今度は三人束になっていざコンサートへ。そこで、みっちゃん、ホリくん、瀬竹誠らが合流。終演後は飲み会でさらなるブライアン談義……。音楽ファンとしての楽しみを存分に味わえた1日でした。

てことで。何かニュー・リリース紹介しないと……とは思うものの。ブライアン漬けの日々からまだ抜け切れていないもので。特に何もないです。仕方ないので、むりやりっぽいけど、今さらながら話題の映画『レイ』のサントラ盤、紹介しちゃいます(笑)。アトランティックとABC、チャールズにとって特に重要だった2つのレーベルにまたがる形で編まれた代表曲集。とはいえ、65年のライヴ盤と76年に日本のみで出たライヴ・イン・ジャパン盤からそれぞれ3曲ずつ収録されているのが、マニアが気になるポイントか。どちらも単体ではいまだCD化されていないので、音源的にはとりあえず貴重かも。レココレの最新号がレイ・チャールズ特集なので、もし万が一まだレイ・チャールズ初心者の方がいらっしゃるようなら、この辺を入門編に、あとはレココレを参考にぐっと深みにハマってください。オリジナル曲も精力的に盛り込みつつソウル・ミュージックという新たな音楽を作り上げた50年代と、カヴァーを中心に独自の強力な歌心を世界に知らしめた60年代と。特にこの時期のレイ・チャールズにハズレなしです。まじです。

あ、ついでに書いておくと。日本ではリリースされなかった2002年ライノ編纂のコンピ、『Sings For America』ってのもお好きな方には要チェック盤です。いまだCD化されない72年の問題作『A Message From The People』から6曲入っていて。ちょっとうれしいです。

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