Disc Review

The Last Waltz / The Band (Rhino/Warner)

ラスト・ワルツ/ザ・バンド

今回のピックアップ・アルバム。やっぱ、今はこれしかない。先月のCRT/レココレ・イベントでもテーマに取り上げたCD4枚組。ザ・バンドが1976年の感謝祭の夜、自らのライヴ活動休止にあたってゆかりの先輩・同輩ミュージシャンたちを多数集めて開催した伝説のイベントの記録だ。78年に当夜の模様をドキュメントした映画のサントラ盤という形でリリースされたアナログ3枚組に、ライヴ音源、リハーサル音源、スタジオ・デモなど未発表音源24曲を追加している。間もなく出る『レコード・コレクターズ』が“ラスト・ワルツ”の特集号みたいなので、詳しいことはそちらを参照していただくほうがいいかも。ぼくも巻頭の文章を書かせてもらいました。

その巻頭記事のテーマってのは、「“ラスト・ワルツ”は何の終わりだったのか」。ただ、今回CD4枚組にアップグレードされたこの盤を聞いていて思ったんだけど、このイベントって、実は何ひとつ終わらせたわけじゃないんだよね。映画やライヴ音源を通じて今“ラスト・ワルツ”を追体験してみると、ここに登場してくる音楽もミュージシャンも、ほとんど今なお現役感を失わずに活動している連中ばっかりで。ボブ・ディラン、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ドクター・ジョン、ヴァン・モリソン、スタジオ・セットのほうに登場するエミルー・ハリスなどなど。

リチャード・マニュエルとリック・ダンコが他界してしまったために続行不可能になってしまったザ・バンド本体とか、やはりすでに亡くなってしまったマディ・ウォーターズとかも含めて、彼らは“ラスト・ワルツ”以降も素晴らしい活動を展開し続けた。当然、ここに記録された25年以上前のパフォーマンス群は、今のぼくたちの耳にもいきいきと現役の躍動感を伝えてくれる。

唯一、何かが終わったのだとすれば、それは、まあ、あくまでもこのイベント開催前後の時点でではあるけれど、他のバンド・メンバーに相談もなく独善的にライヴ活動の停止を宣言し、このイベントを企画して、一介のバンドマンから音楽ビジネス界に深く足をつっこんだプロデューサー様へと華々しく転向したロビー・ロバートソンくらいのものだろう。ザ・バンドを愛するってことは、ほとんどすべての楽曲を作ったとクレジットされているロビー・ロバートソンを愛することでもある。もちろんぼくもロビーが大好きだ。彼のギターもたくさんコピーした。けれど、少なくともこのイベントの段階に限って言えば、そのロビーこそがザ・バンドをつぶした張本人でもあって、もしかすると彼がもっともザ・バンドのことを過小評価していたのかなとも思えて…事は複雑だ。

そんなロビー・ロバートソンの監修によって再構成されたのが今回の4枚組。なもんだから、映画同様、彼にとって都合の悪い部分は今回もカットされている。“完全盤”を売りにしているものの、基本的にはアナログ盤の構成を踏襲。当日の演奏が実際のセットリスト通りに収録されているわけではなく、しかもリチャード・マニュエル必殺の「ジョージア・オン・マイ・マインド」とか、歌い出しを失敗した「キング・ハーヴェスト」とか、ヘルム=マニュエル=ダンコのヴォーカルが交錯するライヴ版「ラスト・ワルツのテーマ」とかは今回も収録されずじまい。残念だけど。

しかし、今回はついにボブ・ディラン&ザ・バンドのパフォーマンスが完全収録された。これはうれしい。これまで出ていたオリジナル『ラスト・ワルツ』に収められていたディラン&ザ・バンドの演奏は「連れてってよ」「アイ・ドント・ビリーヴ・ユー」「いつまでも若く」「連れてってよ(リプライズ)」の3曲4トラックだったのだけれど、これ、まあ、ブートとかで聞いている人はご存じの通り、実際のライヴでは「アイ・ドント・ビリーヴ・ユー」の前に「ヘイゼル」がはさまっていた。その流れの全貌が今回ついに公式に世に出たわけだ。

これがね、いいんだ。このディラン&ザ・バンドの4曲5トラックを聞くだけのために本4枚組を買っても損はない。断言します。既発表の4トラックはこれまでも何度も何度も聞いてきたのに、「ヘイゼル」が一発入るだけでこんなに違うのかと呆然とする。つーか、これがないと意味なしのパフォーマンスだったんだなぁと思い知る。全体がある種メドレーのように構成されているんだから、オリジナル・アナログ発売時に削るなよ。無理してでも入れとけっての。アナログ盤のときのプロデューサーって誰だっけ? あ、ロビーか。まったくよぉ。

他にもザ・バンド単体での「ドント・ドゥ・イット」とか「アケイディアの流木」とかニール・ヤングを迎えた「風は激しく」とか強力な未発表音源あり。既発音源ながら、リチャード・マニュエルとヴァン・モリソンがそれぞれ独自のブルー・アイゾ・ソウル感覚を炸裂させつつ激突する「アイルランドの子守歌」も、やっぱりすごいし。たまらん毎日です。


その他、最近よく聞いているニュー・リリースの中からほんの一部、列挙しておきましょう。

Waiting For Columbus / Little Feat (Rhino/Warner)

もともとのアナログ2枚組をむりやり2オン1CDにするため、「ドント・ボガート・ザット・ジョイント」と「ア・ポリティカル・ブルース」の2曲が、なんと『ザ・ラスト・レコード・アルバム』のCDの空き部分に追いやられるという、ひどい目にあっていた傑作ライヴの完全版。おまけに、78年の段階でライヴ盤に収録すべくミックスダウンされていながら最終的な選曲からは漏れてしまっていた5曲、81年のコンピ『ホイ・ホイ!』に収録された3曲、および今回のCDリリースに合わせて新たにミックスされた2曲がボーナス追加されている。すべて本編同様、77年8月のワシントン公演とロンドン公演からのライヴ音源だ。タワー・オヴ・パワー・ホーン・セクションを従え、ファンク、ジャズ、ニューオリンズR&B、ゴスペル、ブルース、カントリーなどを刺激的に融合した独自のグルーヴを大爆発させている。

Yankee Hotel Foxtrot / Wilco (Nonesuch)

レコード会社ともめまくったあげく、すでに完成していた新作アルバムのマスター・テープを5万ドルで買い上げレコード会社を離れてしまったウィルコ。当然、アルバム発売は無期延期。その際、何らかの経緯で流出した新作の収録曲が去年ネットを駆けめぐったりしていたけれど。ここにきて、ようやくノンサッチとの契約が実現。めでたく幻の新作がリリースされることとなった。バンド単体としては99年の『サマー・ティース』以来。その間、ドラマーが変わったり、本盤を最後に名ギタリスト、ジェイ・ベネットが脱退してしまったり……と、ウィルコを取り巻く状況は大きく揺れ動いたのだけれど、しかしジェフ・トウィーディがいる限り、ウィルコはウィルコ。めざす音世界は揺るがない。といっても、オルタナ・カントリー色はもはや皆無。この辺がジェイ・ベネット脱退の大きな要因って気もするけど。その分、トウィーディの内省的なポップ感覚が爆発。ジム・オルークらのサポートも受けつつ、レディオヘッドに対するアメリカからの回答、とでも言いたくなるような深い世界を見事に作り上げている。

Alice + Blood Money / Tom Waits (Anti)

2枚同時リリースされたトム・ウェイツの新作。どちらも録音は去年から今年にかけてらしいが、『アリス』は92年にハンブルクで初演された同名ミュージカル、『ブラッド・マネー』は00年にコンペンハーゲンで初演された演劇“Woyzek”…いずれもロバート・ウィルソン監督のもと制作された舞台のためにウェイツが書き下ろした楽曲をそれぞれ自演したものだ。主にアヴァンギャルド・ジャズ系の、一癖ある連中を従え、独特のトム・ウェイツ・ワールドを編み上げている。今回は、アイランド移籍後のウェイツ作品に共通していた、ヴォーカルをわざと煤けたような音質にしたりするローファイなアプローチはほとんど聞かれない。少々アヴァンギャルドなアプローチを展開する曲でも、音はけっこうハイファイ。ウッドベースの音圧とか、しゃがれまくった強烈な歌声の深みとかが、しっかりスピーカーを震わせてくれて。ぐっと腰にくる。音質も含めてアルバム全体を演出するのではなく、今回はあくまでも楽曲自体を聞かせたいということなのだろうか。ただ、アサイラム時代によく聞かれたタイプの必殺のバラードとか、しかし当時ならば普通の流麗なストリングス・セクションで彩ったであろうところを、パンプ・オルガンとストロー・ヴァイオリンなどのアンサンブルで朴訥に聞かせてみたり。泣ける。

Are You Passionate? / Neil Young (Reprise)

スタジオ盤としては2年ぶりになる新作。9.11に触発された「レッツ・ロール」をはじめ、どひゃーっとロックするニール・ヤング節もちょっと入っているけれど、今回の目玉は何度かツアーにも同行しているブッカー・T・ジョーンズとドナルド・ダック・ダンの参加だから。彼らが参加したソウル・テイストの楽曲こそが聞き物だ。メロディは『ハーヴェスト』~『ハーヴェスト・ムーン』系の優しいニール・ヤング調。それをいぶし銀のソウル/R&Bサウンドが包み込む、と。悪いわけがないよね。去年のライヴでもクレイジー・ホースをバックに披露していた新曲「クイット(ドント・セイ・ユー・ラヴ・ミー)」が、ブッカー・Tらを迎えてまた別の表情をたたえていたりして。最高っす。

C'mon C'mon / Sheryl Crow (Interscope)

シェリル姐さん、スタジオ盤としては実に4年ぶりとなる新作だ。基本的には全編変わらぬシェリル節。持ち前のクラシック・ロック趣味に貫かれた“いい曲”が目白押しだ。相変わらずはすっぱでブルージーな歌声も炸裂。文句なしの仕上がり……。なはずなんだけど。何かが足りない気もする。久々の新作ってこともあって慎重になりすぎたのだろうか。自分の過去の持ち味を再検証し、それらを緻密に再構築したような感触がどの曲にも聞き取れて。ドン・ヘンリー、レニー・クラヴィッツ、リズ・フェア、ディキシー・チックス、エミルー・ハリスといったゲストの選び方にもその辺の意図が見え隠れしている。おかげで、これまで彼女のアルバムにそこはかとなく、しかし魅力的に漂っていたオルタナ感が消失してしまったような気がする。まあ、あまり深く考えず、よくできたポップ・ロック盤として楽しむのが正解なんだろうけど。

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