
フォー・ザ・ファースト・タイム、アゲイン/タイラー・ボールゲーム
ロサンゼルスを拠点とするシンガー・ソングライター、タイラー・ボールゲームことタイラー・ペリー。初フル・アルバムが出ました。所属するラフ・トレードの共同経営責任者であるジェフ・トラヴィスとジャネット・リーによると——
「ライヴ・パフォーマンスで名高いタイラーの音楽は、力強くメロディックなフックを基調に、60〜70年代音楽からのほのかな影響の下、ノスタルジーと揺るぎない曲作りの技術とを融合させています。彼の声はまさに唯一無比。タイラー・ボールゲームの歌声を聴くと、人間の声というもっとも力強い枠組みの中に、これほどの優しさが存在しうるのだということを思い出させてくれます。エルヴィス、ロイ・オービソン、あるいはハリー・ニルソンのように…」
とのこと。絶賛です。国内盤CDのライナー、書かせていただいたので、詳しくはぜひそちらを参照していただきたいのだけれど。
バックアップしているのが、ワイズ・ブラッドやレモン・ツイッグス、さらにはマイリー・サイラスなどのプロデュースも手がけるフォクシジェンのジョナサン・ラドと、ブライアン・ウィルソンやハリー・ニルソンらへの脈絡も強く感じさせるレトロ・モダン路線の素晴らしい作品群を次々発表しているライアン・ポリー。さらに、フィオナ・アップルとの活動でもおなじみ、エイミー・ウッド(ドラム)と、自身シンガー・ソングライターとしても活動しているマルチ楽器奏者、ウェイン・ウィタカー(ベース)が柔軟なリズム・セクションを提供していて。
そんな興味深い顔ぶれによって、昔ながらのアナログ・レコーディングされたファースト・アルバム。当然、ヴィンテージ機材も多く使われていて。特に象徴的なのはヴォーカルの録音に使われたソニーの“C-37A”。かつてロイ・オービソンも愛用していたコンデンサー・マイクだ。ちなみに、タイラーはデビュー以前のライヴでもよくオービソンの「クライング」を十八番にしていたそうで。この辺のこだわりも心地よい。
“世界でもっとも壮大な曲を書け”というジョナサン・ラドからの命を受けて、キッチンのテーブルで2日かけて書き上げたという「アイ・ビリーヴ・イン・ラヴ」あたりがとりあえずの注目曲で。オービソン的な朗々とした感じに、なんとなくジョン・レノンとかデヴィッド・ボウイあたりのニュアンスも加味されているような…。
でも、去年シングルとして先行リリースされた曲のひとつ「ガット・ア・ニュー・カー」みたいな曲もいい感じ。新しい車を手に入れて喜んでいる曲のようでいて、実はアラン・ワッツの“エゴは人間の意識にとって時代遅れの乗り物である”という言葉をテーマにしたらしき精神的覚醒の歌で。シニカルで自虐的な眼差しが全編を貫いていて。
キャリア的にもけっこういろいろ複雑な歩みをしてきた人みたい。けっして若くもないのだけれど。それも含め、なんか思いきり気になる存在です。

