Disc Review

Joni's Jazz / Joni Mitchell (Rhino/Warner)

ジョニズ・ジャズ/ジョニ・ミッチェッル

本ブログでは、もう出るたびにしつこく紹介し続けてますが(笑)。

ジョニ・ミッチェル自らがキュレーターとなって、米ライノ・レコードとタッグを組みつつ、貴重な過去音源に様々な形で改めてスポットを当てる“JMA(ジョニ・ミッチェル・アーカイヴス)”シリーズっていうのが、ここ数年、続いていて。

貴重なアウトテイクやら別ヴァージョンやら未発表曲やらライヴ音源やら、時代ごとのレア音源を集めた“アンリリースト・マテリアル”シリーズあり。オフィシャルにリリースされたオリジナル・アルバムを年代ごとに再発する“アルバム・リマスターズ”シリーズあり。いろいろな形でジョニさんの素晴らしい功績を改めて掘り起こしてくれているわけですが。

今回はちょっと趣向を変えて。『ジョニズ・ジャズ』というタイトル通り、ジョニさんのジャズ・ルーツを活かした作品とか、ジャズ/フュージョン系のミュージシャンをバックにレコーディングした作品とか、ジャズ系スタンダード・ナンバーのカヴァーとか、ジャズ系のアレンジで自作曲を再演したものとか、そういう音源からセレクトした全61曲のコレクション。CD4枚組で出ました。

ジョニさんは1960年代後半、カナダのフォーク・シーンから登場してきただけに、フォーク寄りの人ってイメージが強いですが、ティーンエイジャーのころから、仲間とジャック・ケルアックみたいなビートニクス系の作家の話とか、そういう作家と関係が深かったジャズの話とかをよくしていた、と。友だちの家の寝室の壁にジャズ・トリオの絵を描いて、報酬としてジャズのレコードをもらったり…。

自らシンガーとして活動し始めてからも、出演していたクラブが、普通の夜はフォークをやっていて、真夜中からはジャズになるところだったらしく、そっち系のミュージシャンともけっこう交流していたみたい。そういうジョニのジャズ・ルーツを再確認するうえでとても興味深いボックスセットです。

弾き語りメインの初期アルバムの後、バンドとレコーディングをするようになったころ、ジョニさん自身はジェイムス・テイラーとかとよく一緒に活動していたセクション(ダニー・コーチマー、リー・スクラー、ラス・カンケルら)とやろうと思ったら、ラス・カンケルから「君の音楽は俺たちじゃなく、もっとジャズ寄りの人とやったほうがいい」とすすめられたとかで。そういう方向性にシフトしてからの曲を中心に、年代順ではなく、ランダムにいろいろなパターンの“ジョニのジャズ”が詰まっております。

初期のアルバム『ジョニ・ミッチェル(Song to a Seagull)』(1968年)とか『ブルー』(1971年)からもそれぞれ1曲ずつセレクトされていて。『バラにおくる(For The Roses)』(1972年)からもトム・スコットやウィルトン・フェルダーがサポートした「コールド・ブルー・スティール」が入っているけれど。

やはり選曲の中心はジャズ志向がぐっと強まった『コート・アンド・スパーク』(1974年)以降。ぼくがジョニさんのジャズ・ルーツを強く意識したのもこのアルバムからだった。アニー・ロスの「トゥイステッド」のカヴァーとか入っていたから。もちろん今回その曲も、「この汽車のように(Just Like This Train)」ともどもセレクトされてます。

で、その後、1975年の『夏草の誘い(The Hissing of Summer Lawns)』からはなんと5曲選ばれて。いよいよ路線本格化、みたいな。そういうジョニさんの歩みを再確認できる。

以降の『逃避行(Hejira)』(1976年)、『ドンファンのじゃじゃ馬娘(Don Juan's Reckless Daughter)』(1977年)、『ミンガス』(1979年)、『ワイルド・シングス・ラン・ファスト』(1982年)、『ドッグ・イート・ドッグ』(1985年)、『レインストームとチョークの痕(Chalk Mark in a Rainstorm)』(1988年)、『ナイト・ライド・ホーム』(1991年)あたりからはだいたい1〜3曲ずつくらいなんだけど。

『風のインディゴ(Turbulent Indigo)』(1994年)からは7曲、『テイミング・ザ・タイガー』(1998年)からは6曲、『ある愛の考察~青春の光と影(Both Sides Now)』(2000年)からは7曲。『トラヴェローグ』(2002年)からは1曲だけだけど、『シャイン』(2007年)からは5曲。この時期に重きがおかれているのがファンとしてはうれしいかも。まあ、ライノ/ワーナーからのリリースってこともあって、リプリーズ復帰後の音源のほうが使いやすかったとか? それだけかもしれないけど。いずれにせよ、この時期のジョニ・ミッチェルへの評価を改めて見つめ直すためにも意義あるセレクションです。

ハービー・ハンコックやカイル・イーストウッドらのアルバムに客演した音源や、ライヴ音源、既発のボックスセットで初出の別テイク、1980年録音の貴重な未発表デモなどもあり。先述した通り、今回、クロノロジカルな構成にはなっていないのだけれど、自分で時系列で並べ替えて楽しむのも悪くなさそう。やってみようかな。

まだ全体的にざっくり聞き通しただけの状態ながら。やっぱりジャコ・パストリアスとタッグを組んでいた時期の音のスリルがすごいなぁ、と再確認。「デ・モインのおしゃれ賭博師(The Dry Cleaner From Des Moines)」とか、ジャコのベースだけでなく、彼が手がけたホーン・アレンジも含めてめちゃかっこいい。それと、ウェイン・ショーターの役割というか存在感というか。そのあたりにも改めて心躍らされたボックスセットでした。ジョニさんにとってもショーターは最も敬愛するコラボレーターだったそうで、彼の逝去(2023年)を受け、このコレクションは彼に捧げられています。

ちなみに昨深夜スタートしたストリーミングだと、ところどころ歯抜けになっていて、全61曲中、今のところ51曲だけが聞ける状態。客演ものとかはそっちの元のアルバムで聞け、みたいなことかな。もちろんダウンロード販売でアルバムまるごと買えば全曲デジタルで楽しめますが。でも、ハンコックやショーターへのインタビューとか、ジョニさんのアート作品なども掲載したブックレットもあるし。間違いなくフィジカルでゲットすべきアイテムでしょう。LP8枚組ってのもあるなぁ。そっちのほうがよかったかなぁ。ああ…。

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