Disc Review

Ben Folds Live with The National Symphony Orchestra / Ben Folds (John F. Kennedy Center for the Performing Arts)

ベン・フォールズ・ライヴ・ウィズ・ザ・ナショナル・シンフォニー・オーケストラ

今、トランプに関しては、まあ、関税のこと、あるいは戦争のことばかりが取り上げられているわけだけれど。

例の、各大学に対する圧力とか、様々な文化施設に対する検閲のような方針変更とか、そういう思想・文化の在り方に対する姿勢のほうも、やっぱり見逃せなくて。もうむちゃくちゃ。とんでもないことになっている。

トランプは2期目の大統領就任直後、音楽を含む米国文化の歩みを掘り起こしアカデミックに保存する博物館や研究施設などを運営するスミソニアン協会に対して、従来の姿勢が“不適切で、分断を招き、反米国的”だとして歴史観の修正を指示した。われらがスミソニアン・フォークウェイズ・レコードとか、どうなっていくんだろう…。

さらには、1971年に開館して以来、ワシントン・ナショナル・シンフォニー・オーケストラやワシントン・ナショナル・オペラなどの本拠地として、年間2000本以上に及ぶ意識的な音楽や演劇などの公演を支援してきた総合文化施設、ジョン・F・ケネディ・センターまで政権の管理下に置き、自らが理事長に就任。長年、センターのトップを務めてきたデボラ・ラッター会長を解任した。

後任にはもちろん自分の側近、リチャード・グレネルを配して。でもって、従来の“リベラル派の価値観に近い内容”の公演をいっさい排除すると発表。ひどい乗っ取り劇だった。きっと、毎年恒例のケネディ・センター名誉賞とかも、今後、受賞者の顔ぶれが変わってくるんだろうなぁ。

もちろん、この動きに対しては多くの関係者たち、表現者たち、支援者たちが反対を表明していて。芸術顧問のルネ・フレミングが辞表を叩きつけたのをはじめ、センターの運営を経済的に支えてきたパトロンたちも次々と支援を拒否。さらには出演が予定されていたアーティストたちも、センターが再び超党派の姿勢を取り戻すまでは出演拒否することを宣言…。

そんなアーティストのうちのひとりがベン・フォールズだ。ベンさんはラッターとルネさまからの要請で、2017年からナショナル・シンフォニー・オーケストラの芸術顧問に就任。ロブ・トーマス、ジョン・バティステ、サラ・バレリスらをはじめとするロック、ジャズなど非クラシック系の人気アーティストたちの音楽とオーケストラとのアンサンブルを融合する意欲的なイベント“デクラシファイド”を着実なペースで続けてきた。

もちろん採算は度外視。ベン・フォールズ・ファイヴを率いて大暴れしていたころにピアノをメインに据えたオルタナティヴ・ロックへの愛を多くのファンと共有したのと同じように、デクラシファイド・シリーズではオーケストラル・ミュージックへの愛をリスナーたちと共有しようとしてきた。

でも、トランプによるセンター乗っ取り劇を受けて、ルネさまとともに彼も芸術顧問を辞任。ケネディ・センターにおける自身の歩みの証として、去年の10月25日と26日に行われたベン・フォールズとナショナル・シンフォニー・オーケストラとの共演コンサートのライヴ・アルバムを先日、米独立記念日にあたる7月4日にサプライズ・リリースした。

それが本作、『ベン・フォールズ・ライヴ・ウィズ・ザ・ナショナル・シンフォニー・オーケストラ』だ。どの曲もオーケストラとのアンサンブルが素晴らしい。ゲストにシンガー・ソングライター、レジーナ・スペクターと、エレクトロ・フォーク・デュオのトール・ハイツも参加。

2年前の傑作『ホワット・マターズ・モースト』の収録曲もあれこれ。あのアルバムに入っていた「クリスティーン・フロム・ザ・セヴンス・グレイド」は幼馴染みがしばらく会わずにいるうちにいつの間にやら陰謀論まみれのメールを毎日送り続けてくるようになってしまったことへの戸惑いを綴った曲だったけれど、これなんか、今、こうしてナショナル響との共演ヴァージョンを聞くと、なんだか切なさがさらに増して…。

2夜のソールド・アウト・コンサートの収益を注ぎ込んだ自費制作という形でのリリース。発売日にワシントンDCのインディ系レコード・ショップで行われたリリース・パーティも長蛇の列ができる大盛況だったみたい。

こういう催しもこれからしばらくケネディ・センターでは見られなくなっていくのかな。早く本来のセンターが戻ってきてほしいものです。サイン入りのフィジカルもあるみたいだけど、各DSD配信サイトなどでストリーミングおよびダウンロード販売されているデジタル・リリースだと4曲多い。ゲットするならこっちかな。

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