Disc Review

Endless Arcade / Teenage Fanclub (PeMa/Merge)

エンドレス・アーケイド/ティーンエイジ・ファンクラブ

2016年の『ヒア』以来、4年半ぶりの新作。出ました。

ずいぶんと昔にここでも書いた通り、ぼくにとってティーンエイジ・ファンクラブといえば、やっぱり断然『バンドワゴネスク』で。1991年にドン・フレミングのプロデュースの下、クリエイション・レコードから出た大傑作。あのアルバムが出たときは、ほんと、ものすごく盛り上がったものだ。すげえやつらが出てきたぞと興奮した。ヴォーカルのバランスとか完全無視の歪んだ轟音パワー・ポップ感がなんともたまらなかった。

ただ、あの感触をいつまでも維持するのはなかなか大変だろうし。正直、すぐに活動休止しちゃうのかもしれないなと思っていたら。なんと、あれからもう30年。彼ら独特のひねくれ感覚をサウンドの表層から楽曲の奥底へと巧みに移行させつつ、爽快さと憂鬱さを絶妙にブレンドした独特のオルタナ・ポップ・サウンドを聞かせ続けてくれている。素晴らしい。

とはいえ、通算11作目のフル・アルバムにあたるこの新作は大きな岐路を迎えての1枚だ。ご存じの通り、前作『ヒア』リリース後、結成以来のメンバーのひとり、ジェラード・ラヴが脱退を表明。ヴォーカリスト/ベース・プレイヤーとしてのみならず、ソングライターとしても重要な役割を果たしてきたジェリーだけに、この脱退はでかかったはずだ。ティーンエイジ・ファンクラブといえば、ノーマン・ブレイク、レイモンド・マッギンリー、そしてジェラード・ラヴ——この3人のソングライター/シンガーそれぞれの個性の混在こそがある種のアイデンティティーでもあったわけで。もはやバンドの歴史もこれまで…。

と、思いきや。

10年くらい前、サポート・メンバーから正式メンバーとなってキーボードとギターを担当していたデイヴ・マクゴワンがジェリーの代わりにベースへ転向。さらに、ノーマンやデイヴとともにサイド・プロジェクト“ジョニー”としてアルバムを出したりしたことでもおなじみ、元ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキのフロントマン、ユーロス・チャイルズがキーボード・プレイヤーとして加入。ソングライティングはノーマンとレイの2人体制で担う形で再始動することになった。

2019年1月に独ハンブルクでレコーディングがスタート。その年2月にさっそくレイ作の「エヴリシング・イズ・フォーリング・アパート」がシングル・リリースされた。ひねくれポップおじさんたちがスタジオでアナログ・マルチ回しながら演奏しているビデオ・クリップもごきげんで。おー、メンバーチェンジしても健在! 従来の味もちゃんと受け継いでいるし、ユーロス加入による叙情的な浮遊感みたいなものも新たに付加されているし。理想的。ニュー・アルバムいつ? と盛り上がったものだ。

ワールド・ツアーに出ている間、レコーディングを中断したりしながらも制作は続き、いったんは去年、2020年10月にニュー・アルバムがリリースされると発表されたりもしたのだけれど。パンデミックに突入したこともあって、リリース後のツアー・スケジュールも含めすべてが白紙に。でも、そのリスケ期間を無駄にすることなく、ノーマンとレイは地元グラスゴーで最終手直しを加え、ついに新生メンバーによる新作アルバム『エンドレス・アーケイド』がこの4月30日、晴れて世に出た、と。そういう流れだ。

去年の暮れに「ホーム」、今年の1月に「アイム・モア・インクラインド」、3月に「ザ・サン・ウォウント・シャイン・オン・ミー」という3曲のノーマン作品も先行公開された。その中では特に「アイム・モア・インクラインド」が泣けた。最高。ティーンエイジ・ファンクラブならではのキュートでジャングリーなギター・ポップ・チューンで。前述「エヴリシング・イズ・フォーリング・アパート」と同じシチュエーションで撮られたビデオ・クリップを繰り返し繰り返し見て大いにアガらせてもらった。

もちろん、それら先行トラック群すべて、この新作アルバムには収められている。つかみはバッチリ!的な超キャッチーな楽曲は残念ながらあまりないのだけれど、そのぶんじんわり長く味わえそうな予感。

先行公開されなかった曲の中では、ノーマン作の「バック・イン・ザ・デイ」が個人的にはいちばんのお気に入りです。ノスタルジックなフォーク・ロック・チューンなのだけれど。そこで淡々とコーラスされる“あのころよく感じていた心の安らぎを、今は見つけられないみたいなんだ(I just can’t seem to find the peace of mind that I knew back in the day)”というフレーズが、なんだかティーンエイジ・ファンクラブの岐路みたいなものをそれとなく反映しているようにも思えて。むりやりな深読みだなとは知りつつも、ちょっと沁みます。

脱退したジェリーの、ほのかな諦観のようなものをたたえた作風を、ノーマンとレイがきっちり自分たちなりに受け継いでくれていることの証と受け止めることもできるかも。そんな歌詞書いてはいるけれど、あのころのあの感じ、実は今でも心の深いところでちゃんと見つけられているみたい。たぶん。

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