Disc Review

Small Changes / Michael Kiwanuka (Geffen/Polydor)

スモール・チェンジズ/マイケル・キワヌーカ

前作『キワヌーカ』が出たのがちょうど5年前。そのときも書いたけれど、この人、アルバムひとつひとつを、じっくり期間を置きながら、ていねいに作り上げてきていて。デビュー作『ホーム・アゲイン』が2012年。セカンド『ラヴ&ヘイト』が4年後の2016年。サード『キワヌーカ』が3年後の2019年。

で、今回、5年という期間を空けて4作目『スモール・チェンジズ』が届けられた。間にパンデミック期が挟まっていることもあるのだろうけど。とにかく待望の新作だ。今回も“デンジャー・マウス”ことブライアン・バートンとインフローがプロデュース。

ジミー・ジャム、ピノ・パラディノ、ジェイムス・ギャドソンらもサポートしている。

Apple Musicに掲載されていたインフォメーションによると、本作はキワヌーカが疑念渦巻く自身の若き日々を振り返って、当時の自分にどんなアドヴァイスを送るれるだろうかと考えたアルバムなのだとか。とはいえ、そうすることによってむしろ未来への希望を表現しているというか。

プライヴェート面で、パンデミック期に突入する直前、ロンドンからサウサンプトンに拠点を移したことや、父親になったことなども少なからず作品に影響しているのだろう。愛とか絆とか、そうしたテイストが歌詞からも音からもにじみだしていて。じんわり沁みてくる。

1970年代ニュー・ソウルっぽいテイストあり、アコースティカルなシンガー・ソングライター風味あり、ピンク・フロイドっぽいドラマチックなギター・ソロあり、ラヴァーズ・ロック系あり、ミニマル・ミュージック的なピアノ・リフあり…相変わらず多彩な音楽性を披露してくれているけれど。全体的な印象としては、余計な装飾を意図的に廃し、曲そのものに焦点を絞ったアレンジというか、“行間”を感じさせる淡々とした音像に貫かれていて。突如、やけに壮大な展開に突入することも多かった過去作とはひと味違う。それでいて、むしろ曲自体の魅力が、太く、強く伝わってくるのだから。キャリアを積んで、なかなかの境地に達したんだな…感はある。

なんでもデンジャー・マウスからジーン・クラークの『ノー・アザー』(1974年)を聞かせてもらったことがいい刺激になったそうで。確かに、いわゆる1970年代シンガー・ソングライター的なアコースティカルな音像から一歩踏み出した、ちょっとだけ複雑で軽くプログレッシヴなアンサンブルを採り入れていた傑作『ノー・アザー』に通じる手触りは随所に聞き取れるかも。ストリングスやコーラスの的確かつさりげないあしらい方にしびれる。

キャリア12年にして、これが4作目かぁ…(笑)。このゆったりしたペースがこの人の良さを引き出しているのだろうなとは思うけれど、できれば次作はもうちょい早めにね。

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