Disc Review

Modern Sounds in Country and Western Music, vol. 1 & 2 + Country and Western meets Rhythm and Blues + Crying Time (2024 Remaster) / Ray Charles (Tangerine Records)

モダン・サウンズ・イン・カントリー・アンド・ウェスタン・ミュージック他/レイ・チャールズ

以前、エヴァリー・ブラザーズの『ダウン・イン・ザ・ボトム:ザ・カントリー・ロック・セッションズ1966〜1968』ってアンソロジーが出たときも書いたことなのだけれど。

カントリー・ロックの始祖は誰か、ということに関しては過去いろいろ語られてきていて。1966年にインターナショナル・サブマリン・バンドを率いてデビューしたのちザ・バーズに加わり、ロック・アーティスト的な視点で伝統的なカントリー文化を徹底的に見つめ直したグラム・パーソンズこそが始祖だとか、同年、アルバム『ブロンド・オン・ブロンド』を録音するためにナッシュヴィルに向かい、そこで当地の気鋭ミュージシャンたちを起用したボブ・ディランだとか、いや、1969年、モンキーズに在籍中にやはりナッシュヴィルの気鋭を集めてセッションしたマイク・ネスミスだとか…。

ただ、以前も書いた通り、もともとパーソンズがロック・バンドのフォーマットでカントリーをやったら面白いんじゃないかと思いついたのは、ローリング・ストーンズがハンク・スノウのカントリー・ヒット「アイム・ムーヴィング・オン」に挑んだカヴァー・ヴァージョン(1965年)を聞いたからだとか、ビートルズが『フォー・セイル』(1964年)で取り組んでいたカール・パーキンスのカヴァーを聞いたからだとかも言われていて。そうなると、ストーンズやビートルズこそカントリー・ロックの始祖なのかもしれないし。

まあ、いろいろです。

ただ、それにちょっとだけ先駆けて行われた、この人、レイ・チャールズの偉大な試行錯誤も絶対に見逃せない。もともとこの人の持ち味は超ジャンルというか。彼自体がジャンルというか。ゴスペル、ブルース、R&B、ロックンロール、ジャズ、そしてカントリー。既製の音楽形態すべてをのみこみ、消化し、そして超越した、どでかいジャンル。それがレイ・チャールズなわけで。カントリーとソウル、ジャズなどとの融合に関しても本当に大きな役割を果たしていて、それがのちのカントリー・ロック誕生を導いたのは間違いのないところ。

その大きなきっかけとなったのが1962年4月、カントリーの名曲たちを独自のソウルフルな解釈でカヴァーしてみせた名盤『モダン・サウンズ・イン・カントリー・アンド・ウェスタン・ミュージック』と、同年10月に出た続編『モダン・サウンズ・イン・カントリー・アンド・ウェスタン・ミュージックVol.2』だ。

ここから「愛さずにいられない(I Can’t Stop Loving You)」「ボーン・トゥ・ルーズ」「ユー・ドント・ノウ・ミー」「心のきずなを解いてくれ(Take These Chain From My Heart)」といった名演がシングルとしても大ヒット。カントリーの奥底にあらかじめ潜んでいたソウルフルな感覚なり、スピリチュアルな祈りなり、ブルージーな憂いなりを見事に浮き彫りにしてみせて。これがのちのカントリー・ロックはもちろん、最近なにかと話題のブラック・カントリーへの道筋をくっきり示してみせた、と。

で、1965年8月にはバック・オウエンズの「トゥゲザー・アゲイン」「じゃじゃ馬娘(I've Got a Tiger by the Tail)」「アイ・ドント・ケア」「ドント・レット・ハー・ノウ」や、ビル・モンローの「ケンタッキーの青い月(Blue Moon of Kentucky)」などのカヴァーを含むアルバム『カントリー&ウェスタン・ミーツ・リズム&ブルース』(別名『トゥゲザー・アゲイン』)を出して、1966年2月にはやはりバック・オウエンズの「クライング・タイム」をフィーチャーしたアルバム『クライング・タイム』を出して。

まあ、こちらの後続2作はカントリー曲のカヴァーだけでなく、自作バラードやパーシー・メイフィールドのブルージーな作品、アシュフォード&シンプソン作品などが混在する内容で。『モダン・サウンズ・イン…』2作とはコンセプトがちょっと違うのだけれど。いずれにしても、レイ・チャールズという雄大な存在の中にどれほど豊かな音楽性が共存しているのかを思い知ることができる素晴らしい仕上がり。

というわけで、この4作、『モダン・サウンズ・イン・カントリー・アンド・ウェスタン・ミュージック』のVol.1と2、および『カントリー&ウェスタン・ミーツ・リズム&ブルース』『クライング・タイム』の再発がこのほど最新リマスターをほどこした形でCDとLPで出揃いました。CDのほうは4作とも、今月末から来月にかけてBSMFから国内盤も出ます。

これ、1962年にレイ・チャールズがABCパラマウント傘下に設立し、1966年に自らも移籍したタンジェリン・レコードからのリリースという形になっていて。まあ、タンジェリン・レコードは1973年にレイがABCを離れた段階で閉鎖されているのだけれど、数年前、彼の過去音源の再発を目的に活動再開されたようで。今回の4作のリマスター再発はタンジェリンによる“モダン・カントリー・スターツ・ヒア”シリーズの一環らしい。

移籍後に出た『クライング・タイム』以外の3枚は、オリジナル・ジャケットにABCパラマウントのロゴが入っていたのだけれど、今回の再発にあたって全部タンジェリンのロゴに変えられました。

なんか本家のWEBストア見ていたら、11月になるとこの4作に『ベスト・オヴ・カントリー&ウェスタン』って盤を加えた5作をまとめた“Country & Western Recordings Bundle”ってのも出るみたい。プレオーダー受け付けてました。CDだけでなくLP5枚組もあるみたいなので、そっち狙おうかな。

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