Disc Review

Meanwhile / Eric Clapton (Bushbranch Records/Surfdog Records)

ミーンホワイル/エリック・クラプトン

ノージくんがこのアルバム・ジャケット、えらく気に入ってるんだよなぁ(笑)。

たぶんアメリカの、かな。どっかのダイナーでコーヒーを前にゆる〜く微笑むクラプトンの姿が写し出されていて。世界が誇るギターの王様なのに。これじゃ Facebook でよく見かけるおっちゃんの自撮り投稿だわ。確かにサイコー。

近年の来日公演で繰り返し体験した、登場の瞬間、みたいな? あのなんとも言えない脱力具合とがっつりイメージが重なる。自然体と言えば聞こえはよさそうだけど、何も気にしていない、つーか、気にしていなさすぎとも思えるこの力の脱け方がたまらない。

もちろん内容のほうもジャケットの手触り通り。力脱けまくりの1枚です。脱帽です。

去年亡くなった旧友ジェフ・ベックへの追悼シングルとしてリリースされた、生前のベックとの共演曲「ムーン・リヴァー」、そのシングルB面にカップリングされていたジュディス・ヒル、サイモン・クライミー、ダニエル・サンティアゴとの共演曲「ハウ・クッド・ウィー・ノウ」、やはり去年、ウィリー・ネルソンの90歳の誕生日を祝って、ブラッドリー・ウォーカーとの連名でウィリーの持ち歌をカヴァーした「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」といった2023年リリースの諸音源3曲に加えて——

パンデミック期にヴァン・モリソンとタッグを組んで陰謀論めいたメッセージを放っていた時期の共演曲「スタンド・アンド・デリヴァー」「ジス・ハズ・ガッタ・ストップ」「ザ・レベルズ」、やはりその時期、ワクチンを巡る政策に関して思うところがあったらしきボリス・ジョンソン首相の辞任の日にリリースした「ポンパス・フール」、ワクチン懐疑論者のロビン・モノティと共作で制作した「ハート・オヴ・ア・チャイルド」といった、まあ、ちょっと、こう、主に歌詞をどうとらえていいのか微妙なナンバー5曲。

これら計8曲が既発音源だ。残る6曲、古い英フォーク・ソングをテックス・リッターがアダプトした「サム・ホール」、ライヴでずっとカヴァーしてきたチャップリン作品のスタジオ・レコーディング「スマイル」、先行シングルとして出ていたジョン・ベティス&サイモン・クライミー作の「ワン・ウーマン」、ボブ・ニューワース作の「ザ・コール」、チャック・ベリー作のブルース「ユーヴ・チェンジド」、そしてラストを締める自作曲「ミスフォーチュン」が今回初お目見えの音源ということになる。

で、まあ、先述した通り、どうしてもパンデミック期の諸作にどう向き合うかとか、複雑な思いになったりもするわけですが。とりあえず無責任に音だけ聞いていると、ほんと、年齢を重ねた偉大なミュージシャンにしか醸し出せない深さ、渋さ、穏やかさ、静かさに加えて、けっして持ちネタだけで楽にこなそうとしているわけではないある種の創造性も感じさせてくれて。歌もアコギもエレキも全部よくて。こればっかりは、さすがクラプトン。ほんと、たまらんです。

近ごろは、たとえばカントリー系の音源を聞いているとき、こいつ米大統領候補、どっちを支持しているのかな、とか。そういうことがふと脳裏をよぎって。ぐるぐるしちゃったりもするわけですが。いやいや、音楽ってのはそういう主義主張を超えたところでたくさんの幸せをぼくたちに届けてくれる文化であるはずなのだから。

以前、ローリング・ストーン紙で読んだコネチカット州のクラシック・ロックFM、WPLR 局のDJの発言を思い出します。このDJ氏、彼にとってロック・ヒーローだったクラプトンが新型コロナを巡って繰り出すもろもろの不可解な発言に困惑しながらも、「彼は音楽で世界にたくさんの幸せをもたらしたんだ。もしぼくの家族が勢揃いした夕食の席で、おじいちゃんがまったく同意できないことを口にしていたとしても、ぼくはそれを無視して“おじいちゃん、そのマッシュポテトこっちにも回して”と言うだろう。それが今のぼくの気持ちさ」と語っていたっけ。うん、そういうことかも。

わざわざ楽しみの幅を狭めることなく、大きな心持ちで受け止めましょうかね。それこそ「スマイル」じゃないけど、“心が痛むときも、折れそうなときも、笑顔でいよう”ですね。今のところデジタル・リリースのみ。フィジカルは来年1月だそうです。

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