Disc Review

A New Tomorrow: The Glad & New Breed Recordings / Glad (New Sounds/Cherry Red)

ア・ニュー・トゥモロー:ザ・グラッド&ニュー・ブリード・レコーディングズ/グラッド

おー、こんなの出ていたんだ!

と、びっくりしたのでご紹介。ポコやイーグルスに加入する以前、ティモシー・B・シュミットが在籍していたバンド、グラッドのアルバム。何年か前、マニアックな再発ラインアップでおなじみ、韓ビッグ・ピンク・レコードが復刻していて、そのときも驚いたけど、今回は英チェリー・レッド傘下のニュー・サウンズ・レーベルから、前身バンドであるニュー・ブリード時代の音源も含めての再発だ。すごい。4月12日にリリースされてました。気がつかなかった…。

グラッドの母体ができたのは1959年。キングストン・トリオの音楽が大好きだった中学生、ロン・フローゲルとトム・フィリップスが地元、カリフォルニア州サクラメントで結成したフォーク・デュオに、ほどなくリトル・リーグの野球仲間、ティモシー・シュミットが参加してトリオに。

当初は“ティム、トム&ロン”と名乗ってティーン向けのクラブや学校のイベントで定期的に活動していたようで、地元ではそこそこ人気を博していたのだとか。やがて彼らはロックンロールに興味を持つようになり、アコースティック編成からエレキ・バンドへ。ドラマーとして友だちのジョージ・ヒューリンを加え、バンド名も“コンテンダーズ”に。西海岸で盛り上がり始めたサーフ・ミュージックを演奏するようになった。

やがてマネージャーからオリジナルを書くよう進言され、「グリーン・アイド・ウーマン」なる曲が完成。バンド名をさらに“ニュー・ブリード”へと変更して地元のディプロマシー・レコードからリリースしたところ、1965年、地元サクラメントでちょっとしたローカル・ヒットになった。

この時期は試行錯誤期。「グリーン・アイド・ウーマン」のシングルB面はフォーモストが歌っていたレノン=マッカートニー作品「アイム・イン・ラヴ」だし、1966年のセカンド・シングルはシラ・ブラックというかダスティ・スプリングフィールドが歌っていたランディ・ニューマン作品「アイヴ・ビーン・ロング・ビフォー」とゾンビーズの「リーヴ・ミー・ビー」のカップリングだし、ボー・ブラメルズの「ファイン・ウィズ・ミー」をやっていたりもするし。

“スナック・バー”ことDJジョン・ハイドの共同プロデュースによるシングル第3弾「ウォント・アド・リーダー」とか、構成とかコーラスワークとか含めてけっこうプログレッシヴで、1966年の段階でこんなの作っていたのかと驚かされる。“サクラメントのビートルズ”とか呼ばれていたらしいです(笑)。ハイドの下でこの時期、ファースト・アルバムの制作も行なわれたという。

が、そんなふうに1967年にかけてシングルを4枚リリースしたところで、彼らは拠点をロサンゼルスへ。そこでテリー・メルチャーの目にとまり、彼のイクイノックス・プロダクションと契約。“グラッド”へと改名し、今度はポール・マッカートニーとの仕事などでも知られるアイリック・ワングバーグのプロデュースの下、イクイノックス・レーベルから「セイ・ホワット・ユー・ミーン b/w ベッドタイム・ストーリー」と「ア・ニュー・トゥモロー b/w ピッキン・アップ・ザ・ピーシズ”」という2枚のシングルをリリースした。「セイ・ホワット・ユー・ミーン」あたりは以前本ブログでも紹介した『英雄と悪漢~LAサウンドの光と陰、ビーチ・ボーイズからビーフハートまで』のようなコンピレーションにも含まれていたので、耳にした方も多いかな。

この辺で彼らならではのガレージ・サイケ+サンシャイン・ポップ+カントリー・ロック的な個性ができあがった感じ。で、ABCの傘下に入ったイクイノックス・レーベルからいよいよアルバム『フィーリン・グラッド』もリリース。バリー・マン&シンシア・ワイルが映画『狂った青春(Wild in the Streets)』のために書いた「シェイプ・オヴ・シングズ・トゥ・カム」のカヴァーと、ワングバーグ作の「ラヴ・ニーズ・ザ・ワールド」以外は、ロン・フローゲルを中心としたメンバーたちの自作曲で固めた意欲作だった。

その後、ティモシーはランディ・マイズナーの後釜としてポコに加入するため1969年にバンドを離脱。代わりにアンドリュー・サミュエルズが加入したラインアップでグラッドはレッドウィングへと発展していくことになるわけですが…。

本作はそのグラッド唯一のアルバムに、モノ・シングル・ヴァージョン8曲を加えて、その後にニュー・ブリード時代の全シングルのAB面8曲も詰め込んだ完全版。1960年代の米西海岸ポップ・サイケデリア・ムーヴメントを反映しながらも、音楽的な完成度に見合ったセールスを記録することはできずじまいだった彼らの活動を再評価するには絶好の仕上がりだ。詳細な24ページのライナーもついているので、勉強になります。

いやー、まだまだ未体験の面白い音楽っていっぱいあるんだなぁ。

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