Disc Review

Release Me: The SSS And Pacemaker Sides 1966-1973 / Johnny Adams (Playback)

リリース・ミー:ザ・SSS・アンド・ペースメイカー・サイド・1966-1973/ジョニー・アダムス

1970年代の半ばごろ。学生時代。東京の神保町を歩きながら中古レコード屋さんを覗くのが好きだった。お金はなかったので、そんなに何から何までたくさん買うことはできなかったけれど、まずは何軒もお店を見て回って、ほしい盤をいくつか見つくろって、いったん喫茶店に入って落ち着いて、その日の予算に応じてどれを買うか吟味を重ねて、で、改めてお店に突撃する…みたいな。

神保町の店並みを何往復もしたなぁ。で、そんなある日、とあるお店で何枚かドゥーワップものみたいなLPを買い込んでいたら、レジのお兄さんが、「君、こういうの好きなの? だったらおすすめがあるんだけど…」とおもむろにレジ裏から1枚、LPを引っぱり出して見せてくれた。

それが1969年にSSSインターナショナル・レコードから出ていたジョニー・アダムズの『ハート&ソウル』で。お兄さんは「聞いてみる?」と言って、A面のアタマじゃなく、5曲目に針を落とした。そこで初めて耳にしたのが「アイ・ウォウント・クライ」って曲で。

いきなりハマりました。やべっ…と胸が震えた。なめらかで美しい、ニューオーリンズ風味も漂う三連バラード。フワッと音像全体を包みこむようなブラスに乗ってアダムズが朗々と渋いノドを披露する。ラスト・コーラスで、ちょっとしゃがれ気味の地声がファルセットに移行する瞬間のスリルがたまらなかった。すっかりトリコ。まいってしまった。で、すでに気に入った盤を買っちゃった後だったけれど、予算オーバー覚悟でなけなしの千円札をサイフから取り出して、『ハート&ソウル』をゲットしたっけ。

レコード屋の店員さんとのやりとりが広げてくれた音楽の世界も、ほんと多かったな。感謝してます。ストリーミングのレコメンドと似ているようで、やっぱり全然違う。とことんアナログな情報交換の味わいってのが、ほんと懐かしいです。

そんなジョニー・アダムズがSSSインターナョナルに残した音源で編まれたアンソロジーが『ジョニー・アダムス:ジ・SSS&ペースメイカー・サイド1966〜1973』。去年の11月に輸入盤で出たものだけれど、今月末に国内盤(Amazon / Tower)も出るようなので、このタイミングで紹介しちゃいます。

必殺の「アイ・ウォウント・クライ」が『ハート&ソウル』に入っていた1959年オリジナルRICヴァージョンではなく1970年にヒットしたSSSヴァージョンで入っているのは、まあ、盤の趣旨から言って仕方ないところ。もちろんこっちもこっちで泣ける仕上がり。ファルセット炸裂度はこっちのほうがえぐい。さらに「リリース・ミー」のようなカントリーもののカヴァー・ヒットなども含め、ファルセットも巧みに使いこなすこの人の歌ぢからを堪能できます。

Resent Posts

-Disc Review
-,