Disc Review

Accentuate The Positive / Van Morrison (Exile Productions Limited)

アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ/ヴァン・モリソン

通算45作目のスタジオ・アルバムだとか。

今年2作目。自身の重要なルーツであるスキッフル周辺の楽曲をカヴァーしまくった前作『ムーヴィング・オン・スキッフル』に続いて、今回もルーツ再訪もの。ロックンロール、R&B、ジャンプ・ブルース、カントリー…超おなじみ曲からマニアックなものまで縦横に、思いきり楽しげに、カヴァーしまくった2枚組を立て続けに届けてくれた。

聞いた感想としては、もう、ほぼ前作のときと同じ。パンデミック期のこの人の、ちょっと陰謀論めいた発言とかには複雑な思いを抱いたものだけれど。前作を紹介したときに書いたフレーズを改めて引くならば、“誰もが未体験だった新型ウイルスもワクチンもない、世を分断する壁など存在しなかった幸福な時代に彼がのめり込んでいた音楽が詰まった作品ということで、今回はわりとややこしい思いを抱かずに接することができた”みたいな。

まさに、それ。この人ならではの歌声と歌心を堪能できるロックンロール名曲集だ。ジミー・デイヴィス作のおなじみ「ユー・アー・マイ・サンシャイン」で幕開け。これはいろいろなシンガーが取り上げている曲だけれど、きっとヴァンさんはレイ・チャールズのヴァージョンとかで親しんでいたのだろう。ごきげんなオープニングだ。

スタンダード・チューンのロックンロール/R&B解釈ものとしてはアルバム表題曲の「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」もそう。ハロルド・アーレン&ジョニー・マーサー作のスタンダードで、パイド・パイパーズやビング・クロスビーのヒットとしておなじみながら、ヴァンさんはジーン・ヴィンセントのカヴァー・ヴァージョンを下敷きに軽やかにグルーヴしてみせる。

「夕陽に赤い帆(Red Sails In The Sunset)」や「ブルーベリー・ヒル」もスタンダードものだけれど、これはどちらもファッツ・ドミノのヴァージョンを意識した選曲だろう。そんなふうにレパートリーを複数とりあげているアーティストとしては、他にエヴァリー・ブラザーズ。彼らのカントリー・ポップ系ロックンロール「ホエン・ウィル・アイ・ビー・ラヴド」と「プロブレムズ」ををぐっとファンキーにブルージーにリメイクしている。さらにビッグ・ジョー・ターナーものも2曲。「フリップ・フロップ・アンド・フライ」と「シェイク・ラトル・アンド・ロール」。この辺はもうお手のものという感じ。

他は、ビル・ヘイリー「トゥー・ハウンド・ドッグズ」、ルイ・ジョーダン「アイ・ウォント・ア・ルーフ・オーヴァー・マイ・ヘッド」、チャック・ウィリス「ハング・アップ・マイ・ロックンロール・シューズ」、ジョニー・レスティヴォ「ザ・シェイプ・アイム・イン」、ジョニー・バーネット・トリオ「ロンサム・トレイン」、アーサー・アレクサンダー「ア・ショット・オヴ・リズム&ブルース」、ジョニー・キッド&ザ・パイレーツ「シェイキン・オール・オーヴァー」、チャック・ベリー「バイ・バイ・ジョニー」、ドン・ギブソン「シー・オヴ・ハートブレイク」、ピー・ウィー・キング「ボナパルツ・リピート」、リトル・リチャード「ルシール」…というラインアップだ。

ヴァン・モリソン(ヴォーカル、アルト・サックス、アコースティック・ギター)、デイヴ・キーリー(ギター)、ピート・ハーリー(ベース)、コリン・グリフィン(ドラム)、リチャード・ダン(オルガン)、スチュアート・マッキルロイ(ピアノ)というのが基本編成。「ロンサム・トレイン」には故ジェフ・ベックのロカビリー・ギターとクリス・ファーロウのデュエット・ヴォーカルをフィーチャー。タジ・マハールも「シェイク・ラトル・アンド・ロール」と「ルシール」にヴォーカルやバンジョーで客演している。

レコーディングしているとか関係なく、幼いころに熱中した曲を仲間と一緒に本当に楽しそうに歌いまくっている様子に、こちらの頬も緩みます。

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