リトゥン・イン・ゼア・ソウル:ザ・スタックス・ソングライター・デモズ/ヴァリアス・アーティスツ
またもごついボックスセットの登場です。スタックス・レコードの保管庫から発掘された強力な7枚組。
デトロイトのモータウン・レコードを本拠にたくさんの名曲を生み出し続けたソングライターといえば、スモーキー・ロビンソン、ノーマン・ホイットフィールド、バレット・ストロング、ホーランド=ドジャー=ホーランドなど、いろいろな名前が思い浮かぶけれど。メンフィスのスタックス・レコードにも同様に名曲をたくさん生み出したソングライターたちがいた。
カーラ・トーマス、ルーファス・トーマス、エディ・フロイド、ポップス・ステイプルズ、ウィリアム・ベル、ホーマー・バンクス、マーチ・ウィンド、フレデリック・ナイト、デニス・ラサール、ディレイニー・ブラムレット、ブッカー・T・ジョーンズ、マック・ライス、カール・スミス、ジミー・ヒューズ、ベティ・クラッチャーなど。
自らパフォーマーとして活躍していた人もいるけれど、裏方として曲提供に専念していた人も。そんな多彩なスタックス系ソングライターたちが、自分のために、あるいは他シンガーのために書き下ろした曲のデモ・レコーディングを7枚のCDに詰め込んだのが本作『リトゥン・イン・ゼア・ソウル:ザ・スタックス・ソングライター・デモズ』だ。
収録されているのは全146曲。そのうち140曲が未発表音源という大盤振る舞い。全長7時間半超。編纂したのはウッドストック・フェスの40周年記念6枚組とか、ロサンゼルス系のナゲッツ・コレクション『ホエア・ジ・アクション・イズ!』とか、ジョニー・シャインズのボックスとか、リトル・リチャードのボックスとかでグラミーをはじめさまざまな賞に輝いているシェリル・パウェルスキー。今回もこのボックスセットのために未整理状態のテープを約2000時間分、徹底的に調べ上げたのだとか。素晴らしい。まじ、労作。
ディスク1から3は、スタックスのアーティストのために書かれ、スタックス系列のレーベル(スタックス、ヴォルト、エンタープライズ、ウィー・プロデュース、ココ、リスペクトなど)でレコーディングされた楽曲のデモ集。ディスク4はスタックス系列以外のレーベル(アトランティック、デッカ、ハイ、チムニーヴィルなど)で録音/リリースされたデモ集。そしてディスク5〜7はどのレーベルからもリリースされなかった未発表楽曲のデモ集。
ギター1本の弾き語りで綴られた簡素なものから、そこにコーラスやパーカッションを軽く加えたもの、リズム・セクションも入ったもの、さらにホーン・セクションまで導入してきっちりアレンジされたものまで。普通だったらオリジナル・アルバムのボーナス・トラックとして何曲かお目見えするタイプの未発表音源が一気に7枚組ボックスにまとめられて登場したわけだ。くらくらするなぁ。
ステイプル・シンガーズ「リスペクト・ユアセルフ」の作者マック・ライスのヴァージョンとか、同じくステイプルズでおなじみ「イフ・ユーアー・レディ(カム・ゴー・ウィズ・ミー)」の作者ホーマー・バンクスのヴァージョンとか、ウィルソン・ピケット「634−5789」をスティーヴ・クロッパーのギター・カッティングをバックに歌うエディ・フロイドのヴァージョンとか、おなじみの曲のデモではその骨格がダイレクトに伝わってくるようで、興味が尽きない。
他レーベルのための曲の中ではアル・ウィルソンがプレイボーイ・レコードから出した「アイヴ・ガット・ア・フィーリング(ウィール・ビー・シーイング・イーチ・アザー・アゲイン)」の作者ホーマー・バンクス・ヴァージョンが特にかっこよかったな。
けど、やはりいちばん興味を惹くのは後半3枚にまとめられた、世に出ることなく眠っていた楽曲群か。ボツになった事情は、まあ、ちょっとパクリがあからさますぎるものとか、詰めが甘すぎるものとか、曲それぞれ違うようだけれど。あ、でも、これ何かタイミングがちょっとずれていればヒットしたかも…と思える曲もなくはない。曲によっては後年の音楽トレンドの先駆け的な試みが聞き取れたりもする。
ウィリアム・ベルの「イッツ・ノー・シークレット」とか、なかなかに沁みるサザン・ソウル・バラードって感じだし、誰が歌っているのか特定できない「ウォーク・オン・バック」って曲とかもソウルフルでいかしてるし。ウィリー・シングルトンの2曲「サムホエア・イン・サムバディーズ・ハート」と「ラヴ・トリーティ」にもしびれた。
あと、ホーマー・バンクス&レイモンド・ジャクソン作の「トゥー・マッチ・シュガー・フォー・ア・ダイム」って未発表曲とかもよかった。歌っているのはベティ・クラッチャー。彼女もまたジョニー・テイラーやステイプル・シンガーズ、サム&デイヴ、アルバート・キングらに楽曲提供しつつ奮闘していたソングライターだ。彼女のデモも今回たくさん収められているので、これを機会にその存在にさらなる注目が集まるといいなと思ったりもしました。