Disc Review

Joy’All / Jenny Lewis (Blue Note/Capitol)

ジョイオール/ジェニー・ルイス

インディー・ロック〜オルタナ・カントリー系のバンド、ライロ・カイリーでヴォーカル&キーボードをつとめていた…とか、もうそういう説明は必要ないのかな。ジェニー・ルイス。子役時代も含めて女優さんとしても映画やテレビにたっくさん出演していて、アメリカでの知名度は日本からは想像できないくらい高いのだろうなと思う。

バンド解散後、5作目となるソロ・アルバムが出ました。ベック、ライアン・アダムス、ベンモント・テンチ、ドン・ウォズらにバックアップされつつシンガー・ソングライターとしてのある種の到達点を記録することができた感じの前作『オン・ザ・ライン』のリリースが2019年だったから、もう4年ぶり。本来ならばあの傑作アルバムをひっさげて長いツアーに出て、評価をさらに堅固なものにできたのかなぁと思うものの。

パンデミックが来ちゃったから。ツアーの計画などすべてがキャンセルされて。でも、ジェニーさん、けっして止まることなく自分を見つめ直し、曲作りを続け…。世の中がステイホーム期間中だった2021年にベックが主宰した“ヴァーチャル・ソングライティング・ワークショップ”にも参加。前作レコーディング時にデモを記録した楽曲なども交えながら楽曲をとりそろえ、新作アルバムの制作にとりかかった。

ラスベガス生まれのジェニーさん、長らくロサンゼルスに住んでいたようだけれど、最近ナッシュヴィルに移住したらしく。前作のキャピトル・スタジオBに代わって、今回はナッシュヴィルの名門、RCAスタジオAで録音されている。プロデュースはデイヴ・コブ!

ということで、ライロ・カイリー時代をも彷彿させる、アメリカーナ風味とネオアコっぽいサンシャイン・ポップ風味、そこはかとないR&Bグルーヴとがいい感じに交じり合うシンガー・ソングライター盤が完成した。バックアップしているのはブライアン・アレン(ベース)、ネイト・スミス(ドラム)というコブ人脈。ジェシカ・ウルフがコーラスで参加。もちろんジェニーさんがギター&ヴォーカルで加わり、ナッシュヴィルでベーシック・トラックを録音して、その後、ロサンゼルスでグレッグ・リースとジョン・ブライオンがペダル・スティールやストリング・ベンダーを装着したギターなどをダビングしたとのこと。

まだ歌詞のことはよく把握できていないけれど、わりと痛みを赤裸々に描く歌詞も見受けられた前作に対して、今回はより温かみを感じさせる表現が多いような気がする。ジェニーさんがツアーのオープニング・アクトをつとめたよしみでハリー・スタイルズがビデオクリップにちらっと登場している「パピー・アンド・ア・トラック」って曲では、40歳代を生きる自分をシニカルに見つめつつ、“子供もいない/ルーツもない/私は孤児”とか歌っているのだけれど、それが自己憐憫としてではなく、ある種前向きな自立への宣言のように届くところが本作のいちばんの魅力かも。

続く「アップルズ・アンド・オレンジズ」では元カレと今の恋人のことを比べながら、“今の彼、キュートでホットでクールであなたとは全然違うの…”とか歌って、最後“愛ってゴージャスよね”とか締めちゃって。こうだったらよかったのに…的な思いに縛られることなく、今自分がどうあるのかということにポジティヴに向き合っている感じなのかな。いや、まだよくわかってませんが(笑)。

すでにアラフィフ? でも、かわいらしさも維持しつつ、ドーンとした動じなさも身につけて。ジェニーさん、いい感じに年を重ねています。

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