Disc Review

Now / Graham Nash (BMG/ADA)

ナウ/グレアム・ナッシュ

4月のアタマに元ホリーズのアラン・クラークが新作アルバム『アイル・ネヴァー・フォーゲット』(Amazon / Tower)をリリースした。これ、20年ぶりのリリースとなった2019年のカムバック・アルバム『リサージェンス』に続く1枚で。今回はかつてのバンドメイト、グレアム・ナッシュも参加。「バディーズ・バック」という、ホリーズ時代の初心に還ったようなバディ・ホリー讃歌を書き下ろして提供していたほか、コーラスもたっぷり披露していた。

で、そのアルバムに続いて、今度はナッシュさんの番。彼も久々のニュー・アルバムを届けてくれました。パンデミック期には自宅から積極的にライヴ配信したり、フォトブック『ア・ライフ・イン・フォーカス:ザ・フォトグラフィー・オヴ・グレアム・ナッシュ』を出版したり、今年に入ってからも3月に催されたジョニ・ミッチェルのガーシュウィン・アワード受賞を祝うコンサートで「ア・ケイス・オヴ・ユー」をカヴァーしたり、4月から新たなワールド・ツアー“シックスティ・イヤーズ・オヴ・ソングズ・アンド・ストーリーズ”に乗り出したり。話題の尽きないナッシュさんではありますが。

去年には初期ソロ・アルバム2作を再現したライヴ盤を出したものの、スタジオ・フル・アルバムのリリースとなると2016年の『ジス・パス・トゥナイト』以来7年ぶり。タイトルはずばり『ナウ』。現在81歳を迎えたベテランならではの現在進行形の毅然さを、しかし妙な気負いなしに記録した1枚が誕生しました。てことで、本ブログではずいぶん昔、ここで取り上げて以来のナッシュさん、いきます。

「ア・ベター・ライフ」「イン・ア・ドリーム」「イット・フィールズ・ライク・ホーム」「フォロー・ユア・ハート」「ホエン・イット・カムズ・トゥ・ユー」あたりは「ティーチ・ユア・チルドレン」や「アワ・ハウス」、「時は流れても(Wasted On The Way)」などクロスビー、スティルス、ナッシュ(&ヤング)における彼の個性が発揮された名曲群を受け継ぐような柔らかな作風で。しみます。

もちろん、例の米議会襲撃事件に対する怒り炸裂の「ゴールデン・アイドルズ」とか、現代社会を辛辣に皮肉る「スターズ&ストライプス」とか、タイトルからして熱い「スタンド・アップ」とか、かつての「シカゴ」や「ミリタリー・マッドネス」などソロ初期を想起させる政治的メッセージ色濃い楽曲もあるし。弦楽四重奏をバックに展開する「アイ・ウォッチト・イット・オール・カム・ダウン」という曲では、美しいハーモニーの下、“ぼくはすべてがロックンロール・パレードへと堕ちていくのを見てきた”とか、“すべてがビジネス街の文鎮と化すのを見てきた”とか、“ぼくは去るよ、長くそこにいすぎたんだ”とか歌ってるし。

かと思えば、前述したアラン・クラークへのバディ・ホリー愛に満ちた提供曲「バディーズ・バック」も、たぶん同じオケで、ナッシュの歌声をぐっと大きくフィーチャーした形にリミックスされて収録されているし。ホリーズでデビューして以来、60年に及ぶキャリアを彼なりに大きく振り返ったアルバムということなのかも。前作『ジス・パス・トゥナイト』は38年にわたる結婚生活の終わりと新たな恋の始まりを描いたものって感じだったけれど、今回はより大きなスパンで人生そのものを見つめ直しているような…。

デヴィッド・クロスビーをはじめ、近しい者たちの訃報が次々届くなか、ナッシュさんもいろいろ思うところがあるはずで。そんな中で出したとりあえずの答えが、4月にスタートした本格的なツアーであり、久々の新作にあたる本アルバムである、と。

「フォロー・ユア・ハート」って曲では“これだけ長い歳月をともにしてきても、君を愛していると伝えることだけは忘れない/そして、これだけ長い歳月をともに過ごしたあと、君がぼくを愛してくれていることをけっして忘れない”と歌う。3年前に再婚した今の奥さま、エイミー・グランサムに歌いかけたものなのか、この世を去った音楽仲間に捧げたものなのか、はたまたぼくたちファンに向けたものなのか…。

最近のインタビュー読んでたら、あと20年は元気でやっていきたいとか頼もしいこと言ってた。めざせ100歳超え! ってことか。次も楽しみにしてます。

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