フォーエヴァー・フォーエヴァー/ジェネヴィーヴ・アルターディ
今朝は8時過ぎちゃうとブログどころじゃなくなりそうなので(笑)。ちょっと早起きして、急ぎのブログ更新です。紹介するのはルイス・コールとのユニット“ノウワー”の相方として、あるいは現在の彼氏だというペドロ・マルティンスとのコラボ・ユニット“エクスペンシヴ・マグネッツ”のひとりとして、多彩な活動を続けるロサンゼルス本拠のシンガー・ソングライター、ジェネヴィーヴ・アルターディ。
日本にはノウワーで何度か来てくれていて。去年の暮れにもルイス・コール・ビッグ・バンドの一員として来日。で、そのときはオープニング・アクトも担当して。そこで披露された彼女の最新ソロ・プロジェクトが盤となってリリースされた、と。各所で話題のその新作、ここでも取り上げておきます。2015年のセルフ・リリース盤から数えればこれが3作目のソロ・アルバムかな。
今回はサンダーキャットのキーボード、デニス・ハムに薦められて、メキシコのエル・デシエルト・スタジオへ。そこにルイス・コール、ペドロ・マルティンスをはじめ、チキータ・マジック、クリス・フィッシュマンらとともにこもって曲を練り上げていったのだとか。全12曲、ジェネヴィーヴのオリジナルだ。
前作『ディジー・ストレンジ・サマー』はもっとエレクトロ・ポップ寄りというか、ダンス・ポップ寄りというか、そういうニュアンスも強かったのだけれど、今回はぐっとジャズとかブラジル音楽とかの方向へ。非ロック的な、よりアコースティカルな音楽性への憧れにも似た思いをはらんだアプローチが新味だ。
この人の場合、ルイス・コールとのユニットでも、なんというか、ありきたりの心地よさのほうには絶対に寄せてたまるか的な無意識が常に働いているみたいで。こっち行けば絶対に気持ちいいのに…というポイントをことごとく外しつつ、それでも独特の浮遊感を演出してみせる、みたいな。そういうドラッギーな感触が妙に魅力的なわけだけれど。今回はそうした音を模索する“精度”がさらに深まった感じ。
まあ、音作り自体を解析すると、グルーヴィなビート・パターンがあって、そこに推進力に満ちたシンセ・ベースが乗っかって、アナログ・シンセやピアノが縦横にスリリングなソロをとって、指弾きっぽいナチュラルな感触のギターが彩りを加えて、精緻なコーラス・ハーモニーがあしらわれて、それらに包まれながらウィスパー気味のヴォーカルが舞う…という感じで。構造としてはごく普通のアンサンブルの積み方だったりするのだけれど。
ところが、コードの展開というか、連なりというか、それに伴うメロディの浮き沈みも含めて、もう絶対にありきたりな落としどころには収まらないぞ的な、潔い緊張感のようなものがアルバム全編を貫いて。ありがちな“いい曲”ってわけではないのに、どの曲もなんだか離れがたい吸引力を放っている。変拍子を交錯させながらえんえんグルーヴするアルバム・タイトル・チューンのように、なんとも落ち着かないような、でも同時にとてつもない磁力を感じさせる展開とか。一筋縄にはいかない。
大げさに言えば、往年のギル・エヴァンスにも通ずる世界観の現代版というか、ドビュッシー的というか、ビョーク的というか、ちょっとイカれたバート・バカラック的というか…。収録曲の一部は、ノウワーとしてスウェーデンのノルボッテン・ビッグ・バンドと共演したときの経験を活かし、ビッグ・バンドでの演奏を想定して書いたものだとか。
普通なら難解で、ややこしくて、ちょっとダウナーになってしまいそうな音楽なのに、なぜかとても外向きで陽性で爽やかで。無邪気な遊び心すら感じさせる。まじ、マジカルかつアヴァンなエクスペリメンタル・ポップ。ちょっとふわふわと気分を揺らめかせたいときに絶好の1作かも。