Disc Review

Soul’d Out: The Complete Wattstax Collection / Various Artists (Craft Recordings/Concord)

ソウルド・アウト:ザ・コンプリート・ワッツタックス・コレクション/ヴァリアス・アーティスツ

すごいの、出ました。以前、米ライノ・レコードが出した伝説のウッドストック・フェスの全貌を記録した、まあ、38枚組のほうに匹敵するとまでは言わないけれど、少なくとも10枚組のほうとはまじタメを張るくらいの豪華ボックス。

あのワッツタックス・コンサートの全貌を記録したCD12枚組です。

1965年、黒人差別をめぐってロサンゼルスで勃発したワッツ暴動。翌年からはその暴動の意味を忘れないため、黒人文化を称え、黒人社会の環境を向上させるためのイベント、ワッツ・サマー・フェスティヴァルが毎年夏に催されてきたのだけれど。1972年8月20日、そのフェスと連動する形でスタックス・レコードがロサンゼルス・メモリアル・コロシアムで開催した全長7時間に及ぶ一大ベネフィット・コンサートが“ワッツタックス”だった。

ジェシー・ジャクソン牧師による、かの有名な“I am Somebody…”という熱いコール&レスポンスを含むスピーチで幕を開けたコンサート。その後、ステイプル・シンガーズ、アイザック・ヘイズ、ルーファス・トーマス、エディ・フロイド、アルバート・キング、バーケイズ、ソウル・チルドレン、キム・ウェストン、ジョニー・テイラー、エモーションズ、ドラマチックスなど、強力なスタックス所属アーティストたちが一丸となってブラックパワーを炸裂させたわけだけれど。

ご存じの通り、その模様は映画にも記録され、翌1973年、2時間弱にきゅっと編集された形で公開された。もちろん日本でも見ることができて。有楽町のスバル座だったかなぁ。ワクワク見に行ったものです。個人的にはもちろん、シーン全体的にも、日本ではまだR&Bの何たるかとか、まだぼんやりしていた時代だったこともあり、鎖ぐるぐる巻きのアイザック・ヘイズとか、ショートパンツ姿のルーファス・トーマスとか、もうそれだけで思いきり衝撃的だった。

映画のサントラ・アルバムとして2枚組ライヴLPが1973年の初頭と暮れ、それぞれひと組ずつリリースされて。以降、数十年にわたってスタックスはその音源を、膨大な未発表ものも含めて小出しに小出しに再発し続けてきた。以前ここで紹介したステイプル・シンガーズのアナログ・ボックスにもフル・セット含まれていたし、映画がリマスター再公開された2003年には大量の未発表音源をボーナス追加した3枚組での再発とかもあったし、2007年には35周年盤もあったし…。

でも、オリジナル・サントラの発売からちょうど50年の歳月を経た今、ついにその決定版が登場です。それが本作『ソウルド・アウト:ザ・コンプリート・ワッツタックス・コレクション』。ドキュメンタリー映画には実際のワッツタックス・コンサートで演奏できなかったアーティストによる、後日、別のロケーションで収録されたパフォーマンスとか、レコードで既発のスタジオ音源とかも含まれていたけれど、その辺も含めて、1972年のワッツタックス関連音源を全部、CDを12枚使って総まくりしてみせる。

もちろん映画の核を成していた1972年8月のコンサートはアタマからラストまで、スピーチやMCも含めて全曲そのままの曲順で収録。ジャクソン師のスピーチがあるまで、開幕シンフォニーの長尺演奏とか、国歌独唱とか、他のスピーチとか、実はずいぶんと長い開幕セレモニーがあったことが今回よくわかりました。映画ではずいぶんとコンパクトに編集されていたジャクソン師のスピーチ自体もものすごく長く、熱いものだったのね。その後のコンサートもすべてフル尺で収録。技術的な問題で演奏のやり直しが行なわれたアイザックス・ヘイズの「シャフト」もちゃんと2ヴァージョン両方、お詫びMCともども収められている。盛り上がる。

別ロケーションでの録音とか、そういうものは後半のほうにまとめてダダーッと並んでいて。過去いろいろな機会で音盤化された音源も多いけれど、未発表ものもそれなりに多く、油断できない。教会の説教壇から歌うエモーションズの「ピース・ビー・スティル」のリハーサル音源とか別テイクとかも熱い。ワッツタックス・コンサートのちょっと後にロサンゼルスのサミット・クラブで収録されたルーファス・トーマス、ジョニー・テイラー、メル&ティムらの未発表音源も楽しい。

2枚組ライヴ・アルバムに収録されてはいたけれど、実は後でスタジオ収録され歓声をかぶせたものだったステイプル・シンガーズの「オー・ラ・ディ・ラ」とエディ・フロイドの「レイ・ユア・ラヴィング・オン・ミー」も今回は前出の未発表ものなどと一緒に最後のほうに別途収められている。

未発表ものは計31曲。フル・カラーのブックレットは76ページ。ワッツタックスの生みの親であるアル・ベルや、ロブ・ボウマン、A・スコット・ギャロウェイによるライナーも。

映画『ワッツタックス』は、単なるコンサート・ドキュメンタリーではなく、ブラック・アメリカン・カルチャーの何たるかを世に届ける強力なメッセージだったわけで。ジェシー・ジャクソン牧師の言葉を借りれば、“音と歌詞による解放”をスタックスのアーティストたちがオーディエンスを巻き込みつつ象徴してみせた“高揚の時代”の記録だったのだろうな。そんなことを改めて思い知らされるとてつもない音源たちです。

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