Book Review

Pete Frame's Complete Rock Family Trees

ロック・ファミリー・ツリー/ピート・フレイム(みすず書房)

夏休みいただきました。今日からまたブログ更新、再開します。ぼちぼちやっていきます。再開第一弾は音盤ではなく、いきなり本のご紹介なんですが(笑)。

今から40年近く前、1983年のこと。『はっぴいえんど伝説』って本を出したことがあって。これがぼくが書き下ろした初の単行本でした。

文字通り、ロック・バンド“はっぴいえんど”の歴史をたどりたいなと思って書いたもの。今では“はっぴいえんど史観”とかいう言葉まであったりして。誰もが彼らの歩みと功績をそれなりに知っているように見えるけれど。当時はまだ、“誰もが”と言えるほどその存在が頻繁に語られることもなく。

でも、ちょうどその時期、大滝詠一が『ロング・ヴァケーション』や『ナイアガラ・トライアングルVol.2』などヒット・アルバムを連続リリースしていて、細野晴臣がYMO以降の大当たりをかっとばしていて、松本隆が作詞家として八面六臂の大活躍を展開していて、鈴木茂がセッション・シーン屈指のギタリスト/アレンジャーとしての地位を確立していて。すでに解散して10年を経ていたはっぴいえんどの存在がシーン全体にアメーバ状に広がっていたような、そんなタイミングだったこともあり、はっぴいえんど結成以降10数年の流れをドキュメント的にまとめてみたいな、と。そう思って書いた本。

まあ、今から思えばけっこう若気の至りというか、勇み足ぎみの記述も多く、ちょっと恥ずかしくもありますが(笑)。思い出の一冊ではあります。

で、その巻末に、はっぴいえんどを中心に据えたファミリー・ツリーのようなものを載せた。ちょっと今、現物を手元で確認できない状態なので、記憶が曖昧なのだけれど。大滝さんのタブーとか、茂さんのスカイとか、そういうアマチュア時代のバンドまで含めたメンバーの出入りの相関図みたいな? 大学時代の友だちに泊まり込みで手伝ってもらって、紙を継ぎ足し継ぎ足し、系図を作ったっけ。あー、懐かしい。

まあ、結局は力足らずで、なんとも中途半端な仕上がりになってしまったものの。そのときにぼくが意識して目指したのが、1979年にイギリスで出版されたピート・フレイムの『Rock Family Trees』という本だったのでした。まあ、要するにパクろうとしたわけですが(笑)。

ピート・フレイムというのは、ご存じ、英音楽誌“ZIGZAG”を創刊したロック・ジャーナリスト/ヒストリアン。カリスマ・レコードのA&Rをつとめたり、様々な音楽雑誌に寄稿したり、功績はいろいろあるのだけれど。なんたって、自らロットリングの製図ペンを駆使して手書きした膨大なロック・ミュージックを巡るファミリー・ツリーの作者としておなじみだ。

この人のファミリー・ツリーはとてつもない。素晴らしすぎる。メンバーの出入りを詳細に記録した系図が太字で書かれていて。そのまわりに小さな手書き文字で、著者の私見とか、ミュージシャンのインタビュー発言からの抜粋とか、興味深いデータとか、マニアックな情報がずらーっと書き連ねられていて。凄まじい集中力と持続力なくしては実現し得ない超労作。感服した。憧れたなぁ。こういうの、ぼくも作りたいな、と思って、はっぴいえんどのやつに自ら挑戦してみて、あ、これは無理だ、と。まじ、思い知りました。俺、字も汚いし(笑)。コツコツやるのも苦手だし。

と、そんな伝説の『Rock Family Trees』の日本語版がついに翻訳出版されましたよ! ピート・フレイムは折に触れて制作〜発表した多彩な手書きロック版系図をまとめる形で、『Rock Family Trees』をこれまでに5回出版していて。そのうち、1979年版と1983年版を1993年に合本にした『Pete Frame's Complete Rock Family Trees』を新井崇嗣さんと瀬川憲一さんが日本語化したのが、今回、みすず書房から出た『ロック・ファミリー・ツリー』だ。

これは強力。もちろんイギリス目線ではあるものの、ロックンロールの発祥期から1970年代末のパンク/ニュー・ウェイヴ期まで、様々なバンドや音楽ムーヴメントの変遷を詳細に書き込んだツリー30枚以上を英語版のまま観音綴じにして、その後に細かく書き込まれたコメントを全文、日本語に訳して掲載するという、なんとも豪華なツクリになっている。(追記:ただし、情報量がとてつもなく多く、訳文が膨大になってしまったこともあり、今回形になったのは1979年版の内容のほうだけ。1983年版はまた機会を見て…ということらしい)

ジーン・ヴィンセントに始まり、クリフ・リチャード&ザ・シャドウズ、ローリング・ストーンズ、プリティ・シングズ、キンクス、バーズ、フー、クラプトン/ベック/ペイジ、フェイセズ、レッド・ツェッペリン、ジェファーソン・エアプレイン、ピンク・フロイド、ジェスロ・タル、CSNY、イーグルス、ポコ、フランク・ザッパ、キング・クリムゾン、ロキシー・ミュージック、トーキング・ヘッズ、パティ・スミス、クラッシュなど…。

個人的には、ものすごくややこしい人の出入りがあったフリートウッド・マックの項とか、ムーヴ〜アイドル・レイス〜ELO〜ウィザードなどが登場するバーミンガム・サウンドの項とか、サンフランシスコ・サウンドを追いかけた項とかが特に興味深かったです。けっこう偏り気味の、乱暴な私見とかも盛り込まれていて、ああ、よき時代の英国ロック・ジャーナリストだなぁ…という感じ。そのあたりも時代を感じさせてぐっときます。

全388ページ。1万5000円とかしちゃう高価な一冊ではありますが。そうとうじっくり楽しめることは確か。サブスクのストリーミングとかも活用しつつ、ひとつずつ系図をたどってみると新たな発見がありそうだ。

ちなみに明日、8月23日の夜20時から、この本の翻訳出版を記念して、ピーター・バラカンさんとぼくのトーク・イベント「ロック・ファミリー・ツリーを聴く夕べ」というのが下北沢の本屋B&Bで行なわれます。有料イベントではあるのですが、もしご興味ある方、いらっしゃいましたら、こちらを参照のうえ、こぞってのご参加お待ちしています。もう明日だけど(笑)。

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