ガヴIII/ヤング・ガヴ
われらが愛しきパワー・ポップの美学をこの21世紀にがっつり継承する頼もしき存在。それがヤング・ガヴ。かつてはヤング・ガヴァナーと名乗っていた、そして時には単にガヴとだけ名乗ったりすることもあるバンドというか、ソロ・プロジェクトというか。
首謀者は、ノー・ウォーニングとか、ファックト・アップとか、ヨット・クラブとか、マーヴェラス・ダーリングとか、1990年代末からさまざまなバンドで活動してきた、ご存じカナダ・トロント出身のベン・クック。2008年以降、彼にとって個人的なソングライティングの“場”として機能しているのが、このヤング・ガヴだ。
2015年の『ライプ・4・ラヴ』、2018年の『2・サッド・2・ファンク』、2019年のバラ売り2枚組のような『GUV I』と『GUV II』、2021年の『ライヴ・イン・LA』に続く新作が出ました。『GUV III』というタイトルからもなんとなく伝わってくる通り、『GUV I』『GUV II』同様、今回も2枚組みたいな作品のひとつめなのだとか。
なんでも2020年、世界を巻き込んでのパンデミックのせいでガヴのアメリカ南西部ツアーが突然中止になってしまったとかで。ベン・クックはバンドのメンバーとともにニューメキシコの砂漠地帯にけっこう長い期間足止めを食うことになったらしい。そこでベックさん、ぼーっとしているのはもったいないとばかり、他のメンバーが寝ている間もがんばって新曲をたくさん書き上げた。2枚組ができちゃうくらいの分量になったそうだ。
で、それらニューメキシコという新たな環境で書かれた作品群をロサンゼルスへと持ち帰り、バンドでスタジオ入りしてレコーディングしたのが本作『GUV III』と、きっとほどなくリリースされることになるのであろう『GUV IV』。『GUV I』と『GUV II』は最終的に『GUV I & II』という形でまとめられたから、こちらもきっと『GUV III & IV』になるのかな。なんとも楽しみだ。
けど、何はともあれ、その前に本作『GUV III』。これが前作以上にばっちりパワー・ポップの何たるかに則った傑作に仕上がっていて。素晴らしい。泣けてくる。ジャングリーなギター・リフ、パワー・コード、シュガーコーティングされたメロディ、緻密に重ねられたコーラス・ハーモニー、痛快なロックンロール・ビート、そして何より、ちょっとメランコリックなムード…。どの曲もおいしいおいしい。
オープニング・チューンの「クドゥント・リーヴ・U・イフ・アイ・トライド」とか、去年からたくさん出ていた先行トラックのうち、サビのどキャッチーさとかが個人的にはいちばんのお気に入りだった「オンリー・ウォナ・シー・ユー・トゥナイト」とか、そこはかとなく漂うサンシャイン・ポップの香りがたまらない「テイク・アップ・オール・マイ・タイム」とか、もろザ・バーズ!って手触りの「シー・ドント・クライ・フォー・エニーワン」とか、ライノ・レコードやビッグ・ディール・レコードあたりが1990年代に編纂したパワー・ポップ・コンピを聞いているみたいな気分になる。
前作あたりまではどこか、まあ、シャレですから的な、ちょっと斜に構えたニュアンスがふと見え隠れする瞬間も感じられる気もしなくはなかったのだけれど。もはやその段階ではない感じ。ある種の覚悟と自信のもと、真っ向からのパワー・ポップ・アクトへと成長した姿を見せつけられた。なんだかうれしい。バンドキャンプとかレコード・レーベルのWEBストアでジャケットに合わせたグリーンのヴァイナルを売ってたようだけど、どちらもすでにソールドアウト。残念! 350枚とか250枚とか限定じゃ仕方ないか。とりあえずはデジタルで楽しみつつ、『GUV III & IV』が出るのを待ってフィジカルをゲットしましょうかね。