Disc Review

Another Side of John Coltrane / John Coltrane (Craft Recordings)

アナザー・サイド・オヴ・ジョン・コルトレーン/ジョン・コルトレーン

客演、共演が多い分野だからなぁ。当たり前の話なのだけれど。ジャズ・ミュージシャンのキャリアを追いかけるとき、お目当てのアーティストのリーダー・アルバムだけ集めても、なかなかその全貌はつかめなかったりする。その辺がジャズの面白いところ。コンプリート気質の強い音楽マニアにしてみると難関というか、攻略しがいがあるというか…。

今回取り上げるジョン・コルトレーンにしてもそう。この人の音源をコンプリートしようと思ったら、まじ大変だ。リーダー・アルバムも多いし。まあ、それでもインパルス・レコードと契約した1961年以降は、基本的に本人名義のアルバムだけ追いかけていけばなんとかなる感じではあるのだけれど。それに対して、1950年代。ここがややこしい。

この人の場合、初リーダー・アルバムは1957年に録音/リリースされた『コルトレーン』。以降、『ブルー・トレイン』(1957年録音、1958年リリース)、『ソウルトレーン』(1958年録音、リリース)、『ジャイアント・ステップス』(1959年録音、1960年リリース)などリリースを重ねてスター・プレイヤーとしての地位を確かなものにしていくことになるわけだけれど。

そこに至るまでの時期、1950年代のうちは、サイドマンとしてけっこう頻繁に他プレイヤーのリーダー・アルバムに参加してきた。そういう場で腕を磨き、表現を深め…。そんな時期がそこそこ長い。1946年、20歳でプロ活動を開始して、1949年にディジー・ガレスピーのバンドへ。以降、アール・ボスティック、ジョニー・ホッジスらのもとを渡り歩いて、1955年、マイルス・デイヴィスのレギュラー・メンバーとして抜擢されて。ここでようやくコルトレーンの知名度が一気に上がることになった。

このマイルス・バンド時代、『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(1955年録音、1957年リリース)とか、『マイルス:ザ・ニュー・マイルス・デイヴィス・クインテット』(1955年録音、1956年リリース)とか、『クッキン』(1956年録音、1957年リリース)とか、『リラクシン』(1956年録音、1958年リリース)とか、『ワーキン』(1956年録音、1960年リリース)とか、様々な名盤に名を連ねた。マイルス・バンド仲間、ポール・チェンバースのリーダー作『ウィムス・オヴ・チェンバース』(1956年録音、1957年リリース)にも参加している。

ソニー・ロリンズの『テナー・マッドネス』(1956年録音、リリース)に1曲客演したのもこの時期。タッド・ダメロンの『メイティング・コール』(1956年録音、1957年リリース)にも参加。

さらに、マイルス・バンドを一時的に脱退していた時期、1957年にはアート・テイラーの『テイラーズ・ウェイラーズ』(1957年リリース)をはじめ、ジョニー・グリフィンの『ア・ブローイング・セッション』(1957年リリース)、ソニー・クラークの『ソニーズ・クリブ』(1958年リリース)、レッド・ガーランドの『オール・モーニン・ロング』(1958年リリース)や『ソウル・ジャンクション』(1960年リリース)、『ハイ・プレッシャー』(1961年リリース)、『ディグ・イット!』(1962年リリース)などでプレイ。

マイルスとはまた別の形での恩師、セロニアス・モンクの『モンク・ヒムセルフ』『モンクズ・ミュージック』(ともに1957年録音、リリース)のセッションで授かった刺激と楽理的な知識は特に大きかったという。こうしたセッションを通じてコルトレーンは急成長。一足先に名声を確立していたソニー・ロリンズと並び称される偉大なテナー・サックス奏者として大きく飛躍していくのでありました。

というわけで、初リーダー・アルバムを出すまでの時期、あるいは出した直後の時期にコルトレーンが経験したこうしたセッションでのパフォーマンスを抜きに彼の歩みを語ることはできない…的な? そういうことになるわけだけれど。でも、こうしたアルバム群をひとつひとつ潰していくのもけっこう大変。数も多いし。1曲か2曲しか参加していない作品もあるし。と、そんなものぐさ系リスナーに格好のコンピレーションが出た。それが本作『アナザー・サイド・オヴ・ジョン・コルトレーン』だ。

1曲だけ、マイルス・デイヴィス・グループに復帰後、1961年に録音したコロムビア音源(「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」)が入っているけれど、他はすべて1956年から1957年、まさに上り調子の時期にあったコルトレーンがサイドマンとしてプレスティッジ、リヴァーサイド、ジャズランド各レーベルに残したプレイばかり。ブルーノート音源がまったく入っていないのがちょっと残念かな。

CDとストリーミングは全11曲、2枚組で出たヴァイナルLPは全13曲入り。なので、個人的には断然、曲が多いヴァイナルをおすすめ。ぼくもそっちで買いました(Amazon / Tower)。既発音源ばかりによるコンピとはいえ、コルトレーンの新譜が出て、それをLPで買うという行為がうれしくて、数日前、買って即インスタに写真アップしちゃいましたよ(笑)。

限定カラー・ヴァイナルもあるけれど、当然こちらはすべてソールドアウト。でも、ジャズはやっぱブラック・ヴァイナルでしょ。落ち着く。てことで、ヴァイナルLP2枚組の収録曲に従ってリーダー名および初出アルバムを列挙しておくと——

【サイドA】

  1. ソニー・ロリンズ/テナー・マッドネス(『テナー・マッドネス』、1956年5月録音)
  2. マイルス・デイヴィス/ラウンド・ミッドナイト(『マイルス・デイヴィス&ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ』、1956年10月録音)
  3. マイルス・デイヴィス/オレオ(ファルス・スタート入り)(『リラクシン』、1956年10月録音)

【サイドB】

  1. マイルス・デイヴィス/エアジン(『クッキン』、1956年10月録音)
  2. タッド・ダメロン/ソウルトレーン(『メイティング・コール』、1956年11月録音)
  3. アート・テイラー/C.T.A.(『テイラーズ・ウェイラーズ』、1957年3月録音)
  4. セロニアス・モンク/モンクズ・ムード(『モンク・ヒムセルフ』、1957年4月録音)

【サイドC】

  1. セロニアス・モンク/エピストロフィー(別テイク)(『セロニアス・モンク・ウィズ・ジョン・コルトレーン』、1957年6月録音)
  2. セロニアス・モンク/トリンクル、ティンクル(『セロニアス・モンク・ウィズ・ジョン・コルトレーン』、1957年7月録音)
  3. セロニアス・モンク/ナッティ(『セロニアス・モンク・ウィズ・ジョン・コルトレーン』、1957年7月録音)
  4. レッド・ガーランド/バークス・ワークス(『ソウル・ジャンクション』、1957年11月録音)

【サイドD】

  1. レッド・ガーランド/ビリーズ・バウンス(『ディグ・イット!』、1957年12月録音)
  2. マイルス・デイヴィス/サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム(『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』、1961年3月録音)

CDやストリーミングはこれらからモンクの「ナッティ」とレッド・ガーランドの「バークス・ワークス」の2曲を省いた11曲を収録。再発プロデュースはニック・フィリップス。グラミー賞受賞エンジニアのポール・ブレイクモアが最新マスタリングをほどこして、クリント・ホリーがカッティング。ダグ・ラムゼイがライナーを書き下ろし。

1960年代に入ってから、照準をぐっと絞った形で繰り広げられたソロ名義でのヘヴィなアプローチというのも、もちろん思いきり魅力的ではあるのだけれど。1950年代、誰か別のリーダーの下、与えられた立ち位置の中でどこまで熱いプレイを奔放に展開できるか模索していた時期のコルトレーンもとても魅力的だ。まだ独自の“シーツ・オヴ・サウンド”の高みにまでには至っていないものの、持ち前のアグレッシヴな魅力は隠しようもなく随所に爆裂。結果、究道的な肌触りとキャッチーな切り口とが、どの曲でも絶妙なバランスを保ちつつ交錯していて。しびれる。

良コンピです。

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