ポエッツ/リズ・シモンズ
ヴァーモント本拠の男女3人組フォーク/ルーツ・バンド、ロウ・リリーのシンガーとして、あるいはリヴィングストン・テイラーやメラニー、トム・チェイピンなどのツアー・メンバーとして地道にキャリアを重ねてきたリズ・シモンズ。彼女が自らプロデュースし、自主リリースした最新ソロ・アルバムが本作だ。
本人が奏でるギター、ピアノの他、ニュー・ライダーズ・オヴ・ザ・パープル・ヘイズのメンバーだったこともあるベテラン、ピート・グラント(ペダル・スティール)、ナタリー・ハース(チェロ)、クルキッド・スティルのコリー・ディマリオ(ベース)、ジャズ寄りのフィールドでも高く評価されているニコール・ズレイティス(ピアノ、コーラス)、プログレッシヴ・ブルーグラス系のインフェイマス・ストリングダスターズのメンバーとしておなじみ、アンディ・ホール(ドブロ)、そしてロウ・リリーのメンバーであり夫でもあるフリン・コーエン(ギター、マンドリン)、もうひとりのメンバー、リサ・シュネッケンバーガー(フィドル)らが淡々とバックアップ。
パンデミックの下、レコーディング・セッションはオンラインでのデータのやりとりなども介しながら行なわれらしいのだけれど、そんなことをまったく感じさせない、シンプルながらとてもナチュラルかつ濃密な音のやりとりが記録されている。もちろん、ロウ・リリー同様、どの曲もきっちりアコースティックな感触に貫かれてはいるのだけれど。といっても、フィドルが独特の存在感を強く主張するロウ・リリーでのある種ストイックなブルーグラス〜トラッド系アプローチではなく、ソロ・アーティストとしてのリズさんはより柔軟な展開を目指しているようだ。
気候変動、人生という物語、旅、港町での暮らしなどをテーマに紡がれた瀟洒なアメリカーナ系オリジナル曲が5曲。残り4曲がカヴァー。カヴァー曲のラインアップは、サンディ・デニーの「フー・ノウズ・ホエア・ザ・タイム・ゴーズ」、ティム・オブライエン&ダーク・パウエルの「マイ・ラヴ・ライズ・イン・ザ・グラウンド」、ハナ・サンダースとのデュエットで綴られるジョニ・ミッチェルの「ナイト・イン・ザ・シティ」、そしてなんと、ストリング・バンド版モータウンR&B的アレンジで聞かせるアイズレー・ブラザーズの「ジス・オールド・ハート・オヴ・マイン」!
これらカヴァー・ヴァージョンの存在が本作をぐっと味わい深いものにしている。もちろん、アルバム全編で聞くことが出来る、透き通った、端正な、ナチュラルな、そして深い歌心こそがこの人の持ち味なわけだけれど。そうした、ある種の“静かさ”の背景に潜む柔軟さと幅広さこそ、この人最大の魅力なのだろう。
フィジカルCDは彼女のホームページでしか買えないのかも。ぼくはバンドキャンプで本作のリリースを知って、そこから彼女のホームページに行ってwavファイルをダウンロード購入しましたー。