Disc Review

Give It All You Got / Michael Dease (Posi-Tone Records)

ギヴ・イット・オール・ユー・ガット/マイケル・ディーズ

ロバート・グラスパーとかテラス・マーティンとかカマシ・ワシントンとか、まあ、“新しい時代のジャズ”とか言われるスタイルに接すると、とにかく無条件にワクワクするわけですが。

ただ、日本では特にその傾向が強い気がするんだけど。たとえば、そういう“新しい”ジャズがいいという話になると、その良さを強調したいがためか、以前のスタイルの“古い”ジャズを全否定する人とかも出てきちゃったりしがちで。それは、ちょっと寂しいというか。なんだろう? 廃仏毀釈の伝統?(笑)

でも、ジャズの伝統的なスタイルみたいなものにも、これからだって絶対いきいきと生き続けていってほしいとぼくは強く願う。“古い”と言われるスタイルだって、それが生まれた当初はやっぱり何らか革新的だったはずだし、その要素みたいなものが確実にスタイル〜フォーマットの中にしみこんでいるわけだし。

だいいち、今の時代の耳には特に革新的でなくても、かつて一世を風靡した音楽スタイルというのは、新しかろうが古かろうが、ジャンル問わず間違いなく全部かっこいいのだから。

アンビエントだ、エクスペリメンタルだ、エレクトロニカだ、ドゥーム・メタルだ…と、ロック系の世界でも時代とともに新規/新奇な音楽スタイルがあれこれ出現してくるわけだけれど、そういうものを面白がりつつも、やっぱりシンプルなロックンロールのフォーマットには生き続けてほしいものだと願うのと同じ。

このあたり、文化の“精神”を継承するのか、“型”を継承するのか、というよくある論議になっていくのだけど。まあ、それはいいや。どっちも愛を持って継承してください。というわけで、今朝は超お古い(笑)スタイルのジャズものの紹介です。

イリノイ・ジャケー、ディジー・ガレスピー、クリスチャン・マクブライド、ロイ・ハーグローヴ、ジミー・ヒース、チャールズ・トリヴァーといったそうそうたる面々のビッグ・バンドを渡り歩きつつキャリアを重ねてきた腕ききトロンボーン奏者、マイケル・ディーズの新作。日本にもちょくちょく来ているし、デヴィッド・サンボーン、ミシェル・カミロ、アリシア・キーズなど、ジャズ系を中心に無数のアーティストのレコーディングやツアーに参加しまくる売れっ子としてもおなじみか。

2014年以降、ポジ・トーン・レコードからほぼ毎年1枚ずつリーダー・アルバムも出し続けていて。これがポジ・トーンからの8作目だ。今回は本人のトロンボーンに、アンソニー・スタンコのトランペットとグレゴリー・ターディのテナー・サックスを加えた3管フロント。そこにジム・アルフレッドソンのオルガンと、ユリシーズ・オーウェンス・ジュニア、あるいはルーサー・アリソンのドラム、奥さまでもあるグウェンドリン・ディーズのパーカッション…というのが基本編成だ。

マイケル・ディーズは日本も含めて様々な国の音楽教育に積極的に関与。特に夏の間、ノース・カロライナで行なわれている国際的音楽インスティテュート/フェスティヴァル“ブレヴァード・ミュージック・センター”で熱心に教鞭をとっているのだけれど。今回の参加ミュージシャンはこのブレヴァードでの仲間が中心になっているようだ。

オルガン奏者がフット・ペダルでベースの役割まで担うオルガン・トリオならではのあの感触と、3管フロントによるハード・バップの美学とが合体したファンキーな演奏が全編を貫いている。真っ向からのハード・バップあり、ゴスペル・ファンキー系あり、ボッサ・ジャズあり、ジャズ・ロックものあり、ニューオーリンズR&Bっぽいファンクものあり。ごきげんにかっこいい。

偉大な先達トロンボーン奏者、カーティス・フラーが1950年代にブルーノート・レコードに残した諸作とか、フラーも参加したジャズテットのファーストとか、フレディ・ハバード(あるいはリー・モーガン)+カーティス・フラー+ウェイン・ショーターという強力な3管をフロントに据えた1960年代前半のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの諸作とか、あの辺を聞いているときの痛快な感触がよみがえってくる。

アルバムのオープニングを飾る「ア・シルヴァー・オヴ・シルヴァー」から2曲目の「ザ・ネクスト・レヴェル」へという流れの中、アルフレッドソンのオルガンがうなり、アルバム全体を貫くちょっと新鮮なハード・バップのスタイルをきっちり提示する。

続く「パーカーズ・ファンシー」は、チャーリー・パーカー絡みの曲かと思ったらそうではなくて、ブレヴァード・インスティテュートのドクター・アンドリュー・パーカーに触発されてドラムのルーサー・アリソンが作ったものだとか。これなんかも、もう、もろ佳き時代の“ダンモ”って感じ。次の「ワード・トゥ・ザ・ワイズ」ってディーズ作品も軽くスウィングしつつオルガンがファンキーにうねって、その上で各プレイヤーが存分に暴れる。完璧。

「デイヴズ・ブギー・ダウン」って勇ましいタイトルの曲はオルガンのアルフレッドソンがデヴィッド・サンボーンに捧げる形で書き下ろしたもの。この曲にのみアルト・サックスのシャレル・キャシティが参加し、サンボーンばりになかなか激烈なソロを展開する。煽られてアルフレッドソンもターディもディーズも燃えて。楽しい楽しい。

唯一、ランディ・ナポレオンのギター入りで演奏される「ザンダーファイド」(って読むのかな。よくわかりませんが)って曲とかも、なんだろう、もう、スタンリー・タレンタイン聞いてるみたいで。むちゃくちゃアガります。

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