ドリフターズ・スカイライン/イアン・スケリー
デニス・ウィルソンこそ真のロックンロール・スターだ…と。
デニスの誕生日にそんなことツイートしたりしている人だもの。もう全面肯定です。イアン・スケリー。2000年代を代表するUKポップ・バンドのひとつ、ザ・コーラルのドラマーであり、ポール・モロイとタッグを組んだサイド・プロジェクト、サーペント・パワーの一員であり。そんな彼がソロ名義でリリースするセカンド・アルバムが出た。
つーか、実際に出たのはちょっと前。7月31日に出ているのだけれど。ストリーミング配信/ダウンロード販売以外はアナログLPしかなくて。なかなかこの人らしい趣向ながら。ただ、日本のAmazonもタワー・レコードもディスクユニオンもHMVも今んとここのLPを扱ってくれておらず。2012年の前ソロ『カット・フロム・ア・スター』はCDで出たのに、今回はもともとCDを作ってすらいないみたいで。かといって、ハイレゾも売ってないし。じゃ、仕方ない。ザ・コーラルの公式ストアのサイトでアナログLPを注文するしかないか…と。ぐだぐだ逡巡しているうちに9月に入ってしまった(笑)。
ということで、ハイレゾじゃないデジタル・ファイルをダウンロードでお安く買うか、高い送料込みのLPを海外に注文するか、まだまだ悩みつつ、とりあえず紹介しておきましょう。イアン・スケリーの『ドリフターズ・スカイライン』。デニスのことが好きというだけあって、なんとなくジャケットのイメージは『パシフィック・オーシャン・ブルー』っぽいような。タイトルはボブ・ディランの『ナッシュヴィル・スカイライン』っぽいような…。
去年、ギタリストのフィリップ・マッキネル、キーボードのポール・パイロット、ベースのポール・ダフィらとともにベルリンでレコーディングされた。手元にブツがないもんで詳しいクレジット関連を確認できてはいないのだけれど、全曲をイアンとフィリップ・マッキネルが共作。スケリー、マッキネル、パイロットが共同プロデュース。陽光に満ちた島みたいな環境を夢想しつつ、気まぐれに、穏やかに、リラックスして、ちょっぴりドラッギーに、そこはかとなくサイケに構築された1枚という感じ。
なんでも制作時期、イアンは私生活で悲しい出来事を体験していたらしく。でも、だからといって悲しい音楽を作る気にはなれず。むしろ、悲しい気分のときにTレックスを爆音で聞いて気分をアゲるみたいな、そういう方向性の下、楽しさと温かさに満ちた音楽を作りたいと願って完成させたアルバムだとのこと。
デモ・テイクなどはあえて録らず、自分の意識の流れをそのままストレートにアナログ・テープへと記録したらしい。デニス・ウィルソンっぽさはもちろん、スキップ・スペンスというか、モビー・グレイプというか、ザ・バーズというか、ストロベリー・アラーム・クロックというか、ヴァン・ダイク・パークスというか、そうした1960年代後半のもろもろサイケでアシッドなニュアンスが渦巻く世界観に没入しつつ、それゆえ逆にきっちり現在とコネクトしてしまう、みたいな感触がアルバム全編を貫いている。面白い。
ちょっとオリエンタルなムードもたたえたメロディに“シャラン・シャラン、ウーガム・ブーガム、ローリング・ストーンズ、フライング・ブリトーズ・アンド・カントリー・ジョー…”とか“シャララ、ビ・バップ・ア・ルーラ、ロックンロール、ハング・オン・スルーピー…”なんて意味のなさそうな、でも耳に残る歌詞を乗せて歌う「キャプテン・ケイヴマン」でスタート。以降、穏やかでフォーキーな「オーヴァー・ザ・ムーン」、まさに悲しみをあえて陽気さで包んで癒やすようなカントリー・ロック「ジョーカーマン」、牧歌的な「トラヴェリング・マインド」、アシッドで深い音像が印象的な「ラフ・トゥ・キープ・フロム・クライング」、ビーチ・ボーイズの「フレンズ」を想起させるワルツ「ソーツ・オヴ・ユー」…など、キャッチーなひねり満載の曲ぞろい。
やっぱアナログ、注文するか。ね?