ブルー・ソウル/デイヴ・ストライカー・ウィズ・ボブ・ミンツァー&ザ・WDRビッグ・バンド
デイヴ・ストライカーといえばニューヨーク系のトップ・ジャズ・ギタリストのひとり。教則本とかもいろいろ出していて、日本でもその筋では人気の高い人だけれど。最近は自分が影響を受けた往年のポップ・チューンをジャズ化する“エイト・トラック”シリーズも頻繁にリリース。自身のギターに、オルガン、ドラムという編成のレギュラー・トリオにいろいろ多彩なゲスト・プレイヤーを迎えてのレコーディングも多数こなしていて。
で、そんな流れで何度か共演したミュージシャンのひとりが、こちらもニューヨークを拠点に活動する名サックス奏者のボブ・ミンツァー。ストライカーとの共演がとても楽しかったらしく、このコラボレーションをビッグ・バンドをバックにアップグレードすることはできないだろうかと提案したらしい。そのアイデアをもとに制作されたのが本作『ブルー・ソウル』というアルバムだ。
ミンツァーが首席指揮者をつとめているドイツの名門“WDRビッグ・バンド”が全面協力。去年の3月にストライカーをドイツに招き、ミンツァーのアレンジ/指揮のもと、WDRビッグ・バンドとともに1週間リハーサルを繰り広げ、めでたく強力なアルバムのレコーディングが完成へと至った。
と、まあ、そういう成り立ちからしても想像がつくと思う。ここで展開しているのは、近ごろ、なんというか、こう、意識高い系のジャズ・ファンのみなさんが愛好しているタイプの、ヒップホップとかインディ・ロック経由の今様のそれではなくて。もちろん、そういう新世代のジャズもむちゃくちゃ楽しいのだけれど。本作の場合は、もう、そういう新しいやつを好きな人に言わせれば、超古い、旧態依然とした、新しさのかけらもない、往年のゴリゴリのソウル・ジャズというかジャズ・ロックだったりするわけで。
でも、それがサイコーなのだ。むしろ、新しくないことが心底うれしい。やっぱ目を惹くのは“エイト・トラック”流れのカヴァーもの。マーヴィン・ゲイの「トラブル・マン」と「ホワッツ・ゴーイン・オン」、プリンスの「ホエン・ダヴズ・クライ」、グレン・キャンベルがヒットさせたジミー・ウェッブ作品「ウイチタ・ラインマン」、そしてスタンリー・タレンタインの「スタンズ・シャッフル」。
その他、ストライカー、ミンツァー、それぞれのオリジナル曲も入っていて。その辺も見逃せない。特にストライカー作の「ケイム・トゥ・ビリーヴ」「ブルー・ストラット」「シャドウボクシング」という3曲はなかなかの仕上がりだ。この人が志向する音楽は、確かにいつものオルガン・トリオ形式でも輝くけれど、それだけじゃなく、古き良きビッグ・バンド・ジャズの躍動にもぴったりなのかも。
とにかく、どの曲もごきげん。R&Bインストとしてのジャズ、というか。そういうコンセプトをデイヴ・ストライカー、ボブ・ミンツァー、そしてWDRビッグ・バンドの三者が互いを思いきりリスペクトし合いながら全力で血肉化している感じ。痛快だ。WDRのアルト・サックス奏者、トロンボーン奏者あたりもいいソロ聞かせてくれます。ミンツァーも編曲/指揮のみならず、3曲で自らテナー・サックスをプレイ。
やっぱ、ラージ・アンサンブルは強力っすね。こういうのもソーシャル・ディスタンシングの時代には実現がむずかしそうなシチュエーションではありますが。あー、もう、なんとかなってもらいたい…。フィジカルは6月に入ってからのリリースみたいだけれど、ストリーミング/ダウンロード販売はスタートしてます!