マジック・ウィンドウ/ダグ・クリフォード
この人のグルーヴには本当にお世話になったというか、燃えさせてもらったというか、多くを教わったというか。ダグ・クリフォード。ベーシストのステュ・クックとともに1960年代末から1970年代にかけてクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル(CCR)の屋台骨を支えた屈強のドラマー。
そんなダグさんの新作ソロ・アルバムが出た。いや、新作つーか…。35年前にレコーディングされたものなのだけれど。録音されながらずっと未発表のまま終わっていた音源がついに世に出た。
ダグさん、1980年代にはレイク・タホのあたりのでっかい家に住んでいたらしく。そこに自宅スタジオもあって。自分で書いた曲を音楽仲間とともに録音したり、誰か他のアーティストのプロデュースをしたり、いろいろやっていたのだとか。もちろん、そうした音源たちは2トラックのアナログ・テープに記録/保管されていたわけだけれど、ダグ自身も日々の多忙さの中でそれらの存在をすっかり忘れていたという。
現在はリノで暮らしているというダグさん。去年、ふと思い立って自宅のガレージを掃除してみたところ、当時のテープがごっそり見つかった。他のアーティストを迎えたものも含めて100曲分くらいあったらしい。その中から、自身が書いて、自身でドラムを叩き、歌も歌ったものを10曲ピックアップしたのが、本“新作アルバム”『マジック・ウィンドウ』だ。
ダグさんはCCR解散後、1972年に自身のニックネームをアルバム・タイトルに冠した『コズモ』というソロ・アルバムをリリースしたことがある。ドナルド“ダック”ダンをベースに迎え、CCRのステュがなんとギターを担当し、タワー・オヴ・パワー・ホーン・セクションなども参加。自作曲メインに、スペンサー・デイヴィス・グループやサー・ダグラス・クインテット、ラヴィン・スプーンフルなどのカヴァーも交えた1枚で。CCRが大好きだったぼくは、当時それなりに楽しく聞いたものだ。
ただ、言い方は悪いけれど、CCRが大いに売れたご褒美のような形でファンタジー・レコードが作らせてくれたアルバムという感じで。良くも悪くもあまり欲のない感触が印象的な仕上がりだった。あれに対して、こちらは、まあ、これまた良くも悪くも、ではあるのだけれど、それなりに気合が入っている。ヴォーカルもがんばっている。曲のヴァラエティも豊か。
すでに2トラックにまとめてミックスずみの音源ということもあって、ドラム・セットの定位とかは古い。いかにもあのころっぽい、シモンズ・ドラムの音色とかもふんだんで…(笑)。1970年代の香りを存分にたたえた真っ向からのエイティーズ・アメリカン・ロックという感じ。古くさいっちゃ古くさい。中途半端に古い。そういう意味じゃ万人におすすめできない、CCRのファンが思いきり好意的に接してなんぼ、みたいなアルバムであることは間違いないのだけれど。
でも、アルバム全編でうなりを上げる♪ズドドドドドドドッとか♪ダカダカダカダカッという16分音符あるいは8分音符のドラム・フィル。今どき珍しい、というか、1980年代にだって珍しかったまっすぐなフィル。その堂々たる迫力にだけは圧倒されるしかない。この人ならでは。
もろにCCRっぽいスワンプ・ロックンロール「ボーン・オン・ザ・サイス・サイド」とかもあるけれど、他は基本的にリック・スプリングフィールドというかホール&オーツというかMTV全盛期の1980年代ロックって感じの旋律とグルーヴの雨アラレ。1970年代半ば、ともにドン・ハリソン・バンドのメンバーとして活動していたラッセル・ダシールがギター、および共同プロデュースで参加しているのもうれしい。
ダグさんはがんの闘病を続ける中、今ではすっかり声が嗄れてしまい、もう以前のようには歌えないということで。そういう意味でも貴重な記録の発掘だ。ステュ・クックと続けていたクリーデンス・クリアウォーター・リヴィジテッドとしてのツアーも今や断念。本作リリースに合わせたライヴなどはどうやらなさそうだけれど。
とはいえ、例の大掃除によって見つかったテープの中には、なんでもボビー・ホイットロックがヴォーカルをとった音源なども含まれているらしく。その辺も何らかの形で今後リリースしていきたいとのこと。聞きたい。期待してます。