モーニング・キス・アット・ジ・アクロポリス/ハロウィーンズ
ハロウィーンズ。なんかいいよね。楽しそうで、キャッチーで、でも、ずいぶんとストレートで、かついかがわしい感触もあって。そんなバンド名を冠したポップ・ユニット。去年の11月に出したシングル「ハナ・ユーアー・アメイジング/ユア・カインダ・マン」に続いて、ついにファースト・アルバム『モーニング・キス・アット・ジ・アクロポリス』が出た。
メンバーは二人だ。ひとりはUKインディ・ロック・バンド、ヴァクシーンズ(ワクチンのこと。今のご時世、心から欲するバンド名ですが)の中心メンバーであるジャスティン・ヤング。もうひとりは、ヴァクシーンズにサポート・キーボード奏者として関わるようになった後、2018年のアルバム『コンバット・スポーツ』から正式メンバーへと昇格したティモシー・ラナム。
二人は『コンバット・スポーツ』で初めてソングライティング・パートナーとして共作を経験したのだけれど、その作業が思いのほか面白く進行したらしく、さらなる可能性を模索するためにフランスのパリへと出向き、現地で曲作りに専念したのだとか。
で、去年の春から、今度は米カリフォルニアのオークランドに腰を据え、レコーディング開始。この魅惑的なサイド・プロジェクトのファースト・アルバムが完成した。プロデュースは、ビッグ・シーフのフロント・ウーマン、エイドリアン・レンカーのソロ・アルバムなども手がけたヒア・ウィー・ゴー・マジックのルーク・テンプルだ。
ジャスティンとティモシーが好きなソングライターは、ジョン・ケイル、ハリー・ニルソン、ランディ・ニューマン、トッド・ラングレンなどらしく、なるほど、そういう意味でぼくのような年寄り音楽ファンにも実にフレンドリーな仕上がり。ヴァクシーンズのエイティーズ・ニュー・ウェイヴっぽいテイストは少々抑え気味で、曲ごとによりポップなアプローチが聞かれる。
オープニングを飾る「ロック・ボトム・ロック」は先に名前を列挙したような先輩ポップ・メイカーたちを好きな人には、まじ、たまらない1曲だと思う。続く「マイ・ベイビー・ルックス・グッド・ウィズ・アナザー」の80年代ユーロ・ビートっぽさも楽しい。
ただ、歌詞はけっこうひねくれていて。さすがにランディ・ニューマンが好きなだけはある。「ユア・カインダ・マン」では“生きている毎日、ぼくは死について考えてきた/たぶん死んでからは生きることについて考えるんだろう”とかシニカルに歌っているし。「ピザ・ショップ・バイ・ポイズン・ベレー」って曲では“ぼくたちはピザ・ショップでDJした/でも、誰もパイナップルをトッピングしたロックンロールを注文してくれなかった”とか、とぼけたこと歌っている。
共感を得られる歌詞ばかりがポップってわけじゃないから。ひねくれ加減も大切です。ごきげん。