チカブーム!/タミー・ニールソン
この人、自分のことを“カントリー、ロカビリー、そしてソウルのホット・ロッキン・レディ”と呼んでいるんだとか。いかしたおばさま…あ、いや、おねーさまっすね!
タミー・ニールソン。1990年代にカナダで2曲ほどカントリー・ヒットを放ったザ・ニールソンズというファミリー・グループの一員だった人だ。当時、北米をドサ回りしながらジョニー・キャッシュやロレッタ・リンなどカントリー系の大御所と共演した経験もあるという。2007年、30歳のときにニュージーランドに移住。以降、ニュージーランドのカントリー・シーンを拠点に、着実なペースで独自の活動を続けている。
ソロでのアルバム・デビューは2008年。『レッド・ダート・エンジェル』というかっこいいタイトルの盤を出して、ニュージーランド音楽賞で最優秀カントリー・アルバム賞を獲得した。でも、ニュージーランドのこととか、ぼくは全然知らなかったから。当時はまったくノーマーク。ぼくがこの人のことを知ったのは、2014年に出たアルバム『ダイナマイト!』で。確か、あれがもう4作目のソロ・アルバムだったと思う。
ジャケットが強烈だった。“クリマイ”のガルシアみたいな体型で。“NCIS”のアビーみたいな髪型して。花とかつけちゃって。やばい目つきで。どーんと大写し。で、聞いてみたらトワンギーなギターを従えて妖しくグルーヴしてたり、ごきげんにロカビリーしてたり、軽やかにホンキー・トンク・カントリーをキメていたり…。見逃せない個性は世界のどこにでもいるもんだな、と改めてうれしくなったものだ。以来、新作が出るたび楽しませてもらってきたのだけれど。
2015年の『ドント・ビー・アフレイド』、2018年の『サッサフラス』に続いて、新作が出た。去年の夏過ぎから五月雨式に4〜5曲が先行シングルとして公開されており、どれもが快調な仕上りだったので今回も楽しみだった。ロカビリー/カントリー風味を基調に、ブルース、ゴスペル、ニューオーリンズR&Bなど様々な(あ、いや、聞く人によっちゃ、全然“様々”じゃないかもしれないけど…)音楽性に触手を伸ばしつつ、不敵にキメてくれている。
前作あたりからヴィジュアル的にもさらに凄まじいことになってきて。今回のジャケットでも、もう、なんだよ、この髪型(笑)。でもって歌声もさらに強烈に。いい感じに酒焼けしたような、はすっぱで、やさぐれてて、でも時折妙にキュートに響いたりもする不思議な魅力が全開だ。いい。
プロデュースはニュージーランドのカントリー新世代としてともにシーンを盛り上げているらしきディレイニー・デヴィッドソン。今回は初期ソロ作品群のプロデューサーでもあり、けっこうたくさんの曲を共作したりしてきた弟のジェイ・ニールソンも全面的にサポート。姉弟、がっちりタッグを組んでいる。
クールさとホットさが絶妙に交錯するオープニング・チューン「コール・ユア・ママ」からごきげん。ジェイとの姉弟デュエット・ヴォーカルが痛快な「ヘイ、バス・ドライヴァー」や、シャッフル調のロカビリー・ブギ「テン・トン・トラック」は先行シングルとしてすでにおなじみの曲。バスとかトラックとか、出てくる車もでかい(笑)。
「テン・トン・トラック」のほうでは、“パパは貧乏育ち/ママもそう/少しハードに働いて、あとはお祈りして、運に頼って/たくさんお金稼がなきゃ/10トン・トラックがいるくらい”とか“服とギターだけ積んでまっすぐナッシュヴィルまでドライヴ/ビッグ・スターになってやる”とか、勇ましく歌っている。しびれる。
「ユー・ワー・マイン」の強烈なスロー・ブルース感覚も、やばさ全開。エヴァリー・ブラザーズのスウィートなミディアム・バラードを想起させる「エニー・フール・ウィズ・ア・ハート」みたいなのもあって。これも去年先行公開された素敵な1曲だ。やはりジェイとのデュエットで綴られている。さらに、メイヴィス・ステイプルズへの敬愛を真っ向から露わにした「シスター・メイヴィス」では、彼女のゴスペル・ヴァイブが炸裂。“私を嘆かせて/私を泣かせて/立ち上がらせて/そして告白させて…”。唸ってます。
タミー&ジェイ・ニールソンと、プロデューサーのデヴィッドソンとで力を合わせて曲作り。3分台は1曲のみ。あとは全部2分台。全10曲で27分。大滝さんのファーストみたいだな(笑)。来月下旬には国内盤も出るそうです!
南半球の不敵なロッキン・ディーヴァ。かっちょいいです。