ドリーマーズ・ドゥ/キャット・エドモンソン
テキサス出身。今どき本当に珍しい、グレイト・アメリカン・ソングブックというか、いわゆるポピュラー・スタンダード的な楽曲を作り、ブロッサム・ディアリーを思わせる独特のキュートな歌声で雰囲気たっぷりに歌うことができる女性シンガー・ソングライター、キャット・エドモンソンの新作だ。
2018年にリリースされた前作『オールド・ファッションド・ギャル』は全曲自作で構成した初のアルバムで。これが実に素晴らしい仕上がりだった。年間ベストにも選ばせてもらったっけ。来日もしてくれて。その模様を新聞でレビューさせてもらったこともある。もちろん、もう大絶賛した。するしかなかった。まじ、素敵だった。
で、そのアルバムのレコーディングに際して、キャットさんは「トゥー・レイト・トゥ・ドリーム」という曲を作ったのだけれど。ちょっと前作のテイストに今ひとつフィットしなかったため、泣く泣くお蔵入りさせたという。
♪お星さま、教えて。私の夢は夢で終わってしまうの? 夢見るには遅すぎるの?
みたいな。そんな歌詞の曲で。でも、このテーマは彼女にとってとても大事なことだったとか。なので、そのテーマを大切に、じっくりあたためて、その曲を発想の起点にして今回の新作が誕生したとのこと。メンターのひとりでもあるアル・シュミットの助言も効いたらしい。
内容的には、前作から打って変わって、今回は収録曲の大部分がカヴァー。自作曲はその「トゥー・レイト・トゥ・ドリーム」も含む2曲のみ。大半が懐かしのディズニー・ナンバーだ。そこに2曲、「この素晴らしき世界(What A Wonderful World)」と、映画『雨に唄えば(Singin’ in the Rain)』から「あなたの夢ばかり(All I Do is Dream of You)」が加わる。
でもって、夢を見るのに遅すぎることはない、夢を見ることはそれだけで素晴らしい、夢がかなうかどうかとかは関係がない…という、そういうテーマを突き詰めてみせた。この、“夢”というテーマを形にするにはディズニー・ナンバーは最適だったのだろう。
前作のリリース後、先述した通り日本も含む世界ツアーに出たこともあって、世界中のいろいろ変わった楽器、二胡とか、琵琶とか、西アフリカの弦楽器であるコラとか、タブラとか、スティール・パンとか、テルミンとか、チェレスタとか、そういったものを随所に盛り込みながら、曲によってはメジャー・キーの曲をマイナー・キーに変えたり、譜割りをいじったり、メロディすら大きく変化させたりしながら、なかなか斬新なディズニー・ワールドを再構築している。
オープニングを飾るのは『シンデレラ』の「夢はひそかに(A Dream is a Wish Your Heart Makes)」。これはわりと普通にジャジーな仕上がりなのだけれど。続く『おもちゃの王国』からの「ゴー・トゥ・スリープ」では一気にオリエンタル風味が強まって。『ふしぎの国のアリス』の「私だけの世界(In a World of My Own)」では3人組女性ジャズ・ヴォーカル・グループ、ダッチェスを迎え、浮遊感たっぷりにハーモニー・アンサンブルを聞かせて。『ピノキオ』からの「星に願いを(When You Wish Upon a Star)」はマイナー・キーにリアレンジされて、ディズニーが提示する夢の裏側に潜むなんともダークな世界観を匂わせたり…。
面白い。ボブ・ハート(ベース)、アーロン・サーストン(ドラム)、ブランディー・ヤンガー(ハープ)ら前作から参加している顔ぶれに加えて、ビル・フリゼール(ギター)、マット・ムニステリ(ギター)、ジャリール・ショウ(サックス)、ロイ・ダンラップ(ピアノ)らがバックアップ。
アルバム・タイトルは大幅に改変された「星に願いを」の歌詞の一節。自作曲は少ないけれと、これもまたキャット・エドモンソンならではのクリエイティヴィティが存分に発揮された1枚という感じだ。