ソフト・ランディング/サンドロ・ペリ
カナダ/トロントのインディ・シーンの最重要シンガー・ソングライター/ギタリスト/プロデューサー、サンドロ・ペリの新作が出た。ソロ名義ではなんと7年ぶりのリリースだった去年の『イン・アナザー・ライフ』では“終わりなきソングライティング”をテーマに、全長24分に及ぶ曲とかに挑んでいたけれど。あれからほんの1年のインターバルでリリースされた今回のアルバムでも負けていない。オープニング・ナンバー「タイム(ユー・ガット・ミー)」は16分超の長尺曲。そのあとに短い曲がいくつか続くという構成も前作同様だ。
とはいえ、前作がぐっとシーケンサー寄りというか、エレクトロっぽい肌触りが底辺に漂っていたのに対し、今回は全体的にナチュラル寄りの音像で。ギターのフレージングはもちろん、パーカッションの感触とか、フルートのような上もののあしらい方とかもかなり生っぽい。個人的にはこっちの浮遊感のほうがしっくりくる。耳が古いもんで(笑)。いつまででも聞いていられるような。このまま終わらないでいてほしいような…。
この人の場合、ポルモ・ポルポ、グリサンドロ70、オフ・ワールド、ダブル・スーサイドなどプロジェクトごとに名義を使い分けながら、チル系のアコースティック・ポップだったり、ポスト・ロック系だったり、抽象的なエレクトロニカだったり、アンビエント・テクノだったり、即興による音響系だったり、様々、多彩な音作りを聞かせてきているのだけれど。本作『ソフト・ランディング』は前作ともどもスムーズでブリージーな彼なりのエクスペリメンタル・ワールドの表現に特化した1枚という感じだ。みっつ前、2007年の『タイニー・ミラーズ』あたりを貫いていたシンガー・ソングライター的テイストも今回改めて強まった。
夢遊病っぽいスロー・ソウルというか、魅力的に揺らめくメロウネスに貫かれた「ゴッド・ブレスト・ザ・フール」が個人的には最高のお気に入り曲。相変わらず儚げなヴォーカルもいい。ジョン・レノンの「イマジン」をこの人なりに継承した感じの「バック・オン・ラヴ」も素敵だ。クラヴィネットが軽やかに跳ねているのに全編思い切りクールな「ロング・アバウト・ザ・レイン」も面白い。インストの「フロリアナ」やアルバム表題曲では、徹底的に沈静した音像のもと、70年代のサンタナとかピンク・フロイドを思わせる切ないチョーキングを炸裂させてみたりしていて。
さりげなく、しかし周到に編み込まれた異化効果が楽しめる1枚です。