ワールド・ゴーン・マッド/ザ・ウェイト・バンド
先日、テレビの歌番組をなんとなく眺めていたら、渚ゆう子とベンチャーズが再会! みたいな企画をやっていて。なんというか、こう、怖いもの見たさでチェックしてみた。まあ、パフォーマンスの出来に関しては特に言及しませんが。それよりも何よりも、まず手始めに、このベンチャーズはベンチャーズなのか、と。そのことが気になって気になって…。
ご存じの通り、もはやベンチャーズにはバンド結成当時のオリジナル・メンバーが誰ひとり在籍していない。60年代半ばに完成した、いわゆる“オリジナル・フォー”と呼ばれる鉄壁のラインアップ、ドン・ウィルソン(サイド・ギター)、ボブ・ボーグル(ベース)、ノーキー・エドワーズ(リード・ギター)、メル・テイラー(ドラム)のうち、すでにボブさん、ノーキーさん、メルさんの3人が故人。ドンさんも数年前、ツアーからのリタイアを宣言した。
ということで、現状のベンチャーズのメンバーは、メルさんの息子であるリオン・テイラー(ドラム)をはじめ、80年代から様々な場でバンドをサポートしてきたボブ・スポルディング(ギター)、その息子のイアン・スポルディング(ギター)、そしてここ数年でサポートから正規メンバーへと出世したルーク・グリフィン(ベース)という4人。なんか謂われがあるようなないような。微妙な顔ぶれだ。まあ、公式にもそう認められ、本人たちもそう名乗っているのだから、これがベンチャーズってことでいいのか。いや、どうだろう。いいのかなぁ…。よくわからない。アタマぐるぐるになっちゃう。
偉大なバンドというかグループというか、その持ち味を後世に受け継ぐというのは、本当に大変なことだ。ベンチャーズのように、同じバンド名のもとであっても往年の味を維持し続けるのは至難の業だったりするわけで。それを別バンドが、別のバンド名のもとで受け継ぐとなると、これはもう賛否渦巻くこと必至というか…。
グレイトフル・デッドに対するデッド&カンパニーとかね。これはもとのバンドのオリジナル・メンバーが現役で在籍する別バンドのパターン。あるいは、オールマン・ブラザーズ・バンドのグレッグ・オールマンとディッキー・ベッツ、それぞれの息子が手を取り合って結成したオールマン・ベッツ・バンドとか。こちらはオリジナル・メンバーの血縁者によるお世継ぎバンドのパターン。いろいろありますが。
ただ、面白いのは、たとえばオールマン・ブラザーズ・バンドの場合など、オールマン・ベッツ・バンド以上に、テデスキ・トラックス・バンドのような、かつて大元のバンドの後期、その一員としてどっぷり活動した腕ききメンバー(血縁っちゃ血縁ですが…)を核に別バンドとして結集した連中のほうが、往年のオールマンズの心意気とかコンセプトとかを今の時代に正統に受け継いでいるように思えたりすること。持ち味に活動後期ならではのデフォルメがいい案配でかかっていることも含めて、こういう形がいちばん理想的な個性継承パターンなのかもしれない。
で、今回の主役、ザ・ウェイト・バンドもそう。オールマンズに対するテデスキ・トラックス・バンド同様、この人たちの場合は、かのザ・バンドに対する後継者。ザ・バンドの何たるかを、活動後期にどっぷり在籍していた腕ききメンバーを中心に据えた別ユニットとして21世紀へ雄々しく受け継ぐ頼もしい存在なのだ。
中心メンバーはジム・ウィーダー。70年代初頭にプロ活動を開始して以来、無数のアーティストのツアーやレコーディングのサポートを続け、やがて1983年、リヴォン・ヘルムのオールスターズに参加することになったニューヨーク州ウッドストック出身のギタリストだ。
1983年というと、ギタリスト、ロビー・ロバートソン抜きの顔ぶれでザ・バンドが再結成された年。当初、ロビー不在の穴を埋めたのはケイト・ブラザーズだった。ザ・バンドの初来日もそのラインアップで実現した。が、1985年、ケイト・ブラザーズが離脱。リヴォン、リック・ダンコ、ガース・ハドソン、リチャード・マニュエルというザ・バンドの4人は、代わりにリヴォンのオールスターズ・バンドに在籍していたジム・ウィーダーをギタリストとして迎え、以降1999年まで15年間——途中、リチャード・マニュエルの他界という悲しい出来事を乗り越えながら——基本的にはこのラインアップで揺るぎない活動を続けていくことになった。
ジムも単なるロビー・ロバートソンの代役ギタリストという役回りだけでなく、再結成後にリリースされたアルバム群『ジェリコ』(93年)、『ハイ・オン・ザ・ホッグ』(96年)、『ジュビレイション』(98年)でソングライターとしても活躍。再結成以降の後期ザ・バンドに欠かせない重要なメンバーとなった。1998年にソロ・アルバム『ビッグ・フット』もリリース。1999年、リック・ダンコ他界後はリヴォンのミッドナイト・ランブル・バンドの一員として、あるいは自身のグループを率いて活動を続けた。
やがて2012年、リヴォンが他界。それを悼み、翌2013年、ジムはリヴォン・バンド関連の仲間たちとともにザ・ウェイト・バンドを結成。数々のツアー活動を重ねながら、ザ・バンドから正統に受け継いだ深く豊かな音世界を、今の時代、各地のファンに届け続けてくれている。
そんな彼らが今月末から来月アタマにかけて初来日。大阪と東京でコンサートを行なう。なんとリトル・フィートのポール・バレアーとフレッド・タケットというツー・トップのギタリストもゲスト参加予定。やばい。と、そんなやばい初来日公演に合わせて、去年、2018年の暮れにリリースされた初のオリジナル・スタジオ・アルバム『ワールド・ゴーン・マッド』の国内盤リリースも実現したのでした。ということで、今回、うきうき気分でピックアップです。
ゲストにブラック・クロウズのジャッキー・グリーンや、ザ・ウェイト・バンドの創設に関わったベーシストのランディ・シアーランテらを迎え、まさにザ・バンドがかつて担っていたリアル・ウッドストック・サウンドを盤面に正統に再現した1枚。収録されているのは基本的にジム・ウィーダーと、現在は脱退してしまったキーボード・プレイヤー、マーティ・グレブを中心とする書き下ろし曲。生前のリヴォン・ヘルムと共作した未発表曲も2曲含まれている。
その他、「ディール」はロバート・ハンター&ジェリー・ガルシア作のグレイトフル・デッドのナンバー。「アイ・ウィッシュ・ユー・ワー・ヒア・トゥナイト」はレイ・チャールズの名唱でも知られるジム・サリンズ作品。「せみの鳴く日」はボブ・ディランのナンバー。これらカヴァー・ヴァージョンの方向性もザ・バンドの伝統をきっちり受け継いでいて見事だ。
オリジナル米盤にはボーナス・トラックとしてザ・バンドのアルバム『ジェリコ』に収められていたジム・ウィーダー&コリン・リンデン作品「レメディ」のライヴ・ヴァージョンが収められていたが、日本盤はそれに加えて、2019年1月に録音された「ザ・ウェイト」の最新ライヴ・ヴァージョンもボーナス追加されている。ライナーもいいですよ。萩原健太さんがメンバー紹介を中心に書いています。すんません(笑)。ありがとうございます。