バード・ソングズ・オヴ・ア・キルジョイ/ベドウィン
シリア生まれのサウジアラビア育ち。グリーンカード・ロトに当選したアルメニア系の両親とともにアメリカへ。ボストン、オースティンなどさまざまな土地を経由して、現在はロサンゼルスを本拠に活動中…という波乱の女性シンガー・ソングライター、“ベドウィン”ことアズニヴ・コーケジアン(って読み方でいいのかな。Azniv Korkejian)のセカンド・アルバム。ひと月以上前、5月末に出てたのか…。スルーしてました。あわててゲット!
2017年の傑作ファースト・アルバム同様、今回もニック・ドレイクとか、カレン・ダルトンとか、ジョニ・ミッチェルとか、レナード・コーエンとか、ローラ・ニーロとか、そうした偉大な先達シンガー・ソングライターたちの深く内省的な味わいを、無理なく、自然体でこの21世紀に受け継ぐ仕上がり。プロデュースは前作に引き続き、ベック、ノラ・ジョーンズ、ブラック・キーズらとの仕事でもおなじみのガス・セイファート。スモーキー・ホーメルやジョーイ・ワロンカーらもプレイヤーとして参加しているので、なんとなく彼らが揃ってクレジットされていたベックの『モーニング・フェイズ』あたりを思い出させられたり。
さらに、こちらも前作から引き続きの参加となる弦編曲のトレイ・ポラードのおかげもあって、ジュディ・シルっぽい深い感触もあったりして。ポップなアレンジがほどこされた曲では初期ジャクソン・ブラウンがよぎったりも…。
歌詞的には、なんというか、さまざまな報われない愛というか、そういったものに対する感情の揺らぎを“鳥”のイメージにだぶらせる、みたいな。「ワン・モア・タイム」って曲では、“私はあなたにとって鎖のようなものなの?/あなたは鳥で、私は鳥かごなの?”とか歌ってるし、「バード・ゴーン・ワイルド」って曲では“失望させないで。私は荒れ狂った鳥のように鳥かごを撲ちまくっている”とか歌ってる。
そうした複雑な思いを多様な形で鳥に託しながら、でも彼女は鳥がけっして自分の意のままにならないことも知っていて。それが単に美しいだけではない、どこか残酷とすら思える感触を歌詞に付加。おかげで、すべての言葉がじんわり傷みを伴いながら胸に沁みてくる。他にも、ちょっと日本語にしにくい衝撃的な描写を、ひたすら穏やかな歌声で淡々と綴っていたりして。本当に魅力的なソングライターであり、クールなシンガーだと思う。脱帽です。
そういえば、先出の「バード・ゴーン・ワイルド」って曲の導入部では“父は電気技師だった。懸命に働いていた。母はお針子。手にしたものを何でも縫っていた。大西洋を渡ってきた。潮流の彼方に夢を見据えながら。あの地では、兵士たちが最前線に向かっていた…”とか歌っていて。このあたり、彼女のユニークな出自がストレートに活かされた表現というか、彼女以外にはなかなか歌えない世界というか。そういう意味でも、ほんと面白い個性です。