アイ・ウィル・オンリー・カム・ホエン・イッツ・ア・イエス/ローズ・ホテル
去年の暮れ、何か面白いやつらいないかな…と、バンドキャンプのサイトを回遊(笑)していたとき、ふと出くわしたのがこの人、ローズ・ホテル。ジョーダン・レイノルズというシンガー・ソングライターのプロジェクト・ユニットってことみたいなのだけれど。やはりバンドキャンプで出会った、別の、男性のジョーダン・レイノルズってシンガー・ソングライターもいるもんだから、いろいろとややこしい。
ともあれ、こちらは女性のジョーダン・レイノルズ。ケンタッキー州ボウリング・グリーン出身で、その後、ジョージア州アトランタへ。当初はオルタナ・カントリー系のソロ・アクトだったようだけれど、バンド形式のプロジェクトへとフォーマットを発展させ、2017年に初EPをリリース。以来、レパートリーの再録音なども含めて着実なペースでEPリリースを続けてきた。
といっても、前述した通り、ぼくがその存在を認識したのは去年の暮れ、微妙な間柄の友だちと久々に電話で会話している様子を繊細に綴った「カンヴァセーション」というEPに出会ったときなので、それ以前の音は全部後からまとめて聞きました。で、けっしてガツン!とやられたとかではなく、そのアンニュイで奥深くて、でもけっしてダウナー過ぎない音像がなんとなく心に引っかかって…。
そんな彼女の初フル・アルバムが出た。今年の春くらいからちょこちょこリリースしてきた先行トラック3曲を含む1枚。これまたけっしてガツン!と来るものとは言えないかもしれないけれど、妙にしみる仕上がりだ。危うさと、妖しさとが儚く交錯しつつ、でも、どこか楽観的でポップ。音像的にはドリーミーなベッドルーム・チェンバー・ポップっぽい、今どきのシンガー・ソングライターならではの質感が基調になっているものの、70年代っぽい既視感もほのかに、巧みに、漂わせていて。それら新旧の要素が渾然と渦巻く感触が、ぼくのような旧世代リスナーの心にも、やさしく、さりげなく寄り添ってくれる。
たとえば、アルバム後半に入っている「ブルー・ライト」って曲とか、往年のジョニ・ミッチェルを思わせる曲調で。しかも、“これは単に過ぎ去っていく季節のようなもの? それとも、あなたは私の唯一の生きがいになっていくの?”という歌詞の一節など、キャロル・キングの「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」に出てくる必殺のフレーズ“これは永遠に続く宝ものなの? それともひとときの慰み?”を想起させるし。
詳細な歌詞がよくわかっていないので、ぼんやりした感想になってしまうのだけれど、一見、ポップで切なく綴られた「イフ・イット・エイント・ハード」という曲で印象的に繰り返される“つらくなかったら、それは恋じゃない/つらかったら、それも恋じゃない”ってフレーズもやけに耳に残った。アルバム全編に、ジョーダン・レイノルズによる問いかけが散りばめられていて、でも、その答えはどこにもなくて、彼女自身もけっしてその絶対的な答えを求めているわけではないようで…。余韻が、ね。後を引きます。個人的には「ウッド・ユー・ビリーヴ・ミー」って曲が今回のベスト・トラックかな。
愛器がフェンダー・ムスタングってとこも、なんかかっこいいっすね。