Disc Review

Stay Around / J.J. Cale (Because Music)

JJStayAround

ステイ・アラウンド/J.J. ケイル

先日のエリック・クラプトン、日本武道館公演。初日に見に行ったのだけれど、盛り上がりました。ノッケの「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」から燃えたし、「ドリフティン・ブルース」で始まる中盤のアコースティック・ギター・コーナーもますます渋かったし、アコースティックでの「ティアーズ・イン・ヘヴン」〜久々の「レイラ」エレクトリック・ヴァージョン!〜「バッヂ」〜「ワンダフル・トゥナイト」という終盤の堂々たる流れにもノックアウト食らったし。

でも、やっぱりマックスに痛快だったのはアンコール。ジョン・メイヤーがサプライズ飛び入りを果たした「コカイン」。毎度のことながら、この曲のブレイク、クラプトンの歌声に合わせて“♪コケーンッ!”というキメ・コーラスを叫ぶのは観客として最高の楽しみだ。

で、そんな「コカイン」や、やはりクラプトンが取り上げていることでおなじみの「アフター・ミッドナイト」の作者としておなじみ、J.J.ケイルが亡くなったのは2013年。生前、最後のスタジオ・アルバムとなったのは2009年、大半の演奏をひとりで多重録音する形で、レイジーかつブルージーな独自の持ち味をぐっと凝縮して披露した『ロール・オン』だったけれど。あれから10年。なんと! 未発表音源のみで構成されたニュー・アルバムがリリースされた。

全15曲。ケイルの奥さまであり、ソロ・ミュージシャンであり、長年バンドの中心メンバーとしても旦那を支えてきたクリスティーン・レイクランド作の「マイ・ベイビー・ブルース」以外、すべてJ.J.ケイル作。30年間、ケイルのマネージメントを手がけてきた古くからの友人、マイク・カッパスとクリスティーン奥さまとが選曲と編纂を担当している。

なんでもケイルは生前、スタジオや自宅で録音した膨大なデモ音源をCD-Rに焼いてカッパスに渡していたのだとか。録音時期はバラバラ。詳細なクレジットが添えられた音源もあれば、何ひとつ情報のないものもある。バンドと一緒に録音したものもあれば、たったひとりで多重録音したものもある。その中から新作アルバムとして問題なくリリースできるクオリティの楽曲群を二人でじっくり吟味。本作が完成したという。

ということで、未発表音源集とはいえ、今回もまたブルース、カントリー、R&B、ロカビリーなど様々な米南部音楽をぐんと深いところで融合したJ.J.ケイルならではの渋い音楽性が存分に堪能できる仕上がりだ。高いスタジオで、高いミュージシャン使って録音するのもいいけれど、それじゃ普通の音になってしまう。自分はそれと同じくらいファンキーなサウンドを、ひとりでクリエイトするほうが楽しい。おかげでユニークなサウンドを作ることができている、と。J.J.ケイル本人はかつて語っていたけれど。まさにそんな感触。

けっして激することなく、抑制のきいたミディアム・ビートをバックにつぶやくように放たれるヴォーカルも、余計なことを何ひとつしない枯れまくりのギター・プレイも、紛う方なきJ.J.ケイル。じわじわ腰にくる。胸が躍る。極上のタルサ・サウンド。芳醇なスワンプ・フィーリング。歌詞に耳を傾けてみても、ずっと続くと思い込んでいた様々なことが結局は変ってしまい、自分が属していた空気感などすべてが過去のものになってしまった、でも、理由はわからないけれど俺はこれをやり続けるしかない…みたいなことを淡々と歌っていたりして。しびれます。

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