ウェイティング・フォー・マイ・ロケット・トゥ・カム/ジェイソン・ムラーズ
ホントはもうイヤなんだけど。やっぱり2002年を象徴する話題として、最後もこのことを書いておこうかなぁ。CCCD。2002年度の最悪ニュースだろう。来年にかけてもムカつき続けるんだろうなぁ。エイベックスだけでなく、東芝EMIも本社からの指示でアメリカ以外のすべての国でのコピーガード全面導入が命じられたとか。消費者の力が強大なアメリカだけはずしているところがセコくて笑えるけど。たぶん、導入するコピーガード方式に関しては各国の裁量にまかされているんじゃないかと思う。となると、当然、日本はCDSなんでしょ。来年から新方式によるコピーガード導入を発表したソニーまでもが、一皮むけば、結局ガード部分の方式はCDSなんだから。ビクターも同様。ムカつく。
CDにコピーガードをかける場合、いろいろな方式がある。ぼくだって、納得のいくコピーガード方式なら別に文句はない。著作権は守られるべきだと思うし、違法コピーはよくないと思うし。デジタルコピーが個人レベルで気軽にできちゃう時代だから、まあ、音楽を送り出す側がそういう神経質な措置に出るのも仕方ないな…とは思うのだけれど。なのに、なぜか日本ではいちばん荒っぽくて、規格外で、再生機にかける負荷も大きくて、音質も劣化して、しかも現実にはまったくコピー防止になっていないイスラエルのミッド・バー・テック社開発のCDS(カクタス・データ・シールド)って掟破りのヘッポコ方式を取り入れていて。だから、ムカつく。反対する。まあ、この辺はぼくのホームページでも何度か書いているので、過去の記述をテキトーに探して読んでいただきたいのだけれど。とにかく謎の導入ですよ。誰が得してるんだ? 絶対、誰かが得してるんだよな。でなきゃ、こんなに各社が歩みを揃えて仲良くこんな欠陥コピーガードを導入するわけないもん。
あと、これはミュージックマガジンの高橋編集長も言っていたことだけれど。業界の人にこの問題を聞くと、誰もが“個人的には反対なんですけどねー。でも、社が決めたことだから…”みたいに答えていて。でも、誰かが言い出したわけだろ? この粗悪なコピーガードを取り入れようって。それは誰なのよ。そいつを表に出せっつーの。広報とか、そういう社の方針の代弁者じゃなくて、その張本人に話を聞きたいじゃないのさ。
CDSを導入した側とか、導入を擁護する側はよく“CDプレーヤーで不具合が出る証拠はあるのか!”とかふんぞり返っているけどさ。規格外の新メディアを導入したのはそっちなんだから、あらゆるプレーヤーで不具合が出ないことを証明する義務、あるいは再生可能機種をきっちり特定する義務はそっちにあるのだ。とりあえず再生できることの証明じゃなく、安全に再生できることの証明、ね。不具合を訴えるユーザーがいる限り、誠意をもって証明してみせろ。ところが、連中から出てくるのは“すべてのプレーヤーでの再生を保証するわけではありません”みたいな、むちゃくちゃ乱暴かつ漠然としたお断りだけでさ。偉そうに、あとは買う側の自己責任で…とかほったらかし。ムカつく。
もうひとつ連中がよく主張するのは、“このまま違法コピーを野放しにしたら音楽がなくなる”ってこと。思い上がってないか? レコード会社の経営が傾いたら、確かに現在のような形での音楽産業は滅びるかもしれないけれど、音楽そのものがなくなるなんてことはないぞ、絶対。音楽があったからこそ音楽産業が生まれたわけで。音楽産業があったから音楽が生まれたわけじゃない。別に既存の音楽産業のお世話にならずとも、着実に活動している音楽家はいるんだから。
そういえばスターデジオに対して、発売後4日間は新譜の放送を禁止するって取り決めが行なわれたみたいだけど。要するにこれ、発売後4日間だけで勝負するみたいな、そういう商売してるってことを自ら宣言したようなものだしね、今の音楽産業は。みっともない。そういう商売のやり方が、デジタル技術の飛躍的な進歩とともに成立しえなくなってるって事実をそろそろ素直に認めて、醜い悪あがきはやめるべきだ。一刻も早く新しい音楽産業の在り方、著作権の在り方を抜本的に見直した方が賢明だと思います。
だいたい、44.1/16bitというCDのフォーマットが音質的にももはや確実に過去のものになりつつあるわけで。いつまでもこのフォーマットに固執する必要はないはず。2003年に向けては、こういう不毛なコピーガード問題など忘れて、新時代ならではの音楽メディアを広めていってほしいものですよ。風の噂では、もうCCCDになるくらいならCDなんか出さない、DVDの音声トラックで行くぞ…とか、新たな方法を模索している人気アーティストもいるみたいだし。いいね。このくっだらねー問題が少しでも早く前向きに解決されていくことを強く望む年の瀬です。
さて、そんな胸くそ悪い話題はともあれ。今年もいろいろありがとうございました。あまりホームページを頻繁に更新できなくなって久しいわけですが。ここで紹介しきれなかったニュー・リリースCDもたくさんあった。今回ピック・アルバムにした盤もそう。ジェイソン・ムラーツって読むのかな。ムラッツ? ムラズ? わかりませんが。10月ごろに出た盤。ジョン・メイヤー、デイヴ・マシューズ・バンド、ベン・フォールズ・ファイヴらとの仕事で知られるジョン・アラージャがプロデュースしているってことで買ってみたんだけど。あまり期待していなかったせいか、これがけっこうよくて。ポップで、洗練されていて、ちょっとジャジーで、ちょっとトロピカルで、いいメロディを紡ぎ出す新人シンガー・ソングライターのデビュー・アルバムだ。素性はよくわからない。ヴァージニア生まれ。ニューヨークのストリートとかでも歌っていたようだけれど、現在はカリフォルニアを本拠にしているらしい。ジュエルのツアーでオープニング・アクトをつとめたりしているみたい。この盤自体はまだあまり話題になっていないようだけれど、2003年以降の活躍が楽しみな個性です。
繰り返しになるものの、今、名前が出た期待のシンガー・ソングライター、ジョン・メイヤーも紹介できなかったし、ウィスキー・タウンのレット・ミラーの盤も紹介できなかったし、ハード・ポップというか、メロコアというか、けっこう勢いのあるセカンド・アルバムを出してきたグッド・シャーロットとかも紹介できなかったし、ホームページに関してはいろいろ心残りも多い2002年だったけれど。まあ、だからといって時間のないときに焦って更新するほどのものでもないだろうから(笑)、また来年も気楽に続けていきます。今後ともよろしく。
あと、年末の日々を楽しく過ごさせてくれているもう1枚。ピックアップしておきます。今さらぼくが紹介するまでもない盤なのだけれど、とりあえず。
Bootleg Series, Vol. 5: Bob Dylan Live 1975 / Bob Dylan (Columbia)
75~76年、旧友のジョーン・バエズやランブリン・ジャック・エリオット、ロジャー・マッギンらに加え、グリニッチ・ヴィレッジ周辺にたむろする若い無名ミュージシャンたちを大挙引き連れてディランが行なったライヴ・ツアーの記録。これまで公式には未発表だったライヴ音源がほとんどだが、ここで聞かれる歌声も演奏も、世紀をまたいでなお、まったく色あせることなく聞き手の胸を突く。ぼくは個人的にはディランの活動ピークは67年までだと思っているのだけれど、この人は時折、こんなふうに思い出したような大爆発を聞かせるから、目を離せない。60年代に吹き荒れた共同幻想の夢は破れ、誰もが“個”“私”に逃げ込んでいた時代のただ中にあって、しかしディランは閉塞した世の中の空気感を粉砕して突き抜けるかのように、60年代のフォーク・コミュニティに充満していた熱情をたたえた大人数のキャラヴァンを率いて激しい歌声を繰り出していたのだ。雄々しい。初回出荷分に付いているボーナスDVDに収められた「ブルーにこんがらがって」のライヴ映像(えんえん歌うディランの顔だけアップにしたもの)は、まじ、かっこいいので、やっぱ初回分ゲットが基本っすね。