Disc Review

Lapalco / Brendan Benson (Startime)

ラパルコ/ブレンダン・ベンソン

ブライアンぼけはいまだ継続中。

いいライヴだったなぁ。まさにプロ失格宣言なのだけれど。ぼくにはあのコンサートの良さを言葉に置き換えることなどできません。評論家失格です。ほんとに。ブライアンのライヴに行かなかった人に、「いやー、いいコンサートだったよ」と言ったとして、その人が「へえ、よかったんですか」とか答えてくれたとしても、「いや、そうじゃなくてね」「よかったんでしょ?」「いや、そう、よかったんだけどさ…」みたいなことになっちゃって。会話にならないというか。前回の来日のときにも思ったのだけれど、あの空間を同時に共有した人としかあの素晴らしさってのを分かち合えないというか。

ビーチ・ボーイズのファンでいて、ほんとによかったなと思った。昔はあまり趣味を分かち合える仲間もいなかったけれど、それでもガキのころからビーチ・ボーイズばっかり聞きまくってきたからこそ、この幸せもあるわけで。

そうだ。今回、とある方からとあるビデオを見せてもらって。それはブライアンの日常の姿を映した仰天プライベート・ビデオで。1999~2000年ごろのいろいろな映像が収められていた。ニール・ヤングの家でデザートをおいしそうに食べてるブライアンとか、エクササイズ中のブライアンとか、ダリアンの指導のもと「グッド・ヴァイブレーションズ」のキーボードを一所懸命練習しているニール・ヤングとか、コナン・オブライエン・ショー出演時のリハとか、ヴァン・ダイク・パークスを迎えたシンフォニック・ツアーのリハとか、面白いシーンがいっぱい。中でも、誰かの家にみんなが集まって、そこにあったグランド・ピアノの前に座ったブライアンが、周りにダリアンやジェフリーやテライーやスコットを従えつつ歌いまくり、コーラスしまくり…みたいな映像には感動した。アンディ・ペイリーとのブートでおなじみ、「プラウド・メアリー」とかもがんがんやっていて。ブライアンがメンバーひとりずつにハーモニー・パートを次々指示して、カウントして、ハモって…。

かっこいいんだ、これが。ブライアンの頭の中には完璧なアンサンブルができあがっていて、それをメンバーひとりずつに的確に伝えて、現実の音へと移し替える。これはプライベートな、リラックスした環境での映像だったわけだけれど、感触はもう『ペット・サウンズ・セッションズ』あたりで聞けるブライアンのスタジオ・ワークそのもの。誰かがほんのちょっとだけ音をはずしていたり、パートを間違っていたりすると、ブライアンはすぐに反応してコーラスをストップさせる。で、ミスを直して再度コーラス。すごいぞ、ブライアン。とともに、ブライアンの指示を楽々と、即座に現実の“声”にして発することができる今のバンドのメンバーたちの力量も再確認した。

このビデオには、他にも、やはりアンディ・ペイリー・セッションズの1曲としておなじみ「サタデイ・モーニング・イン・ザ・シティ」とか、「メルト・アウェイ」とか、「マーセラ」とか、いろいろな曲をピアノで弾き語りしながらメンバーと楽しむブライアンの姿がたくさん映っていた。「ナイト・ワズ・ソー・ヤング」のコードをダリアンに教えて、彼にピアノを弾かせながら気持ちよさそうに歌っているブライアンってのもよかったなぁ。ライヴでやれよ。あと、ロニー・スペクターやデキシー・カップスのヴァージョンでおなじみ「ホワイ・ドント・ゼイ・レット・アス・フォール・イン・ラヴ」をダリアン&ジェフリーとともにノリノリでコーラスしまくるブライアンもかわいかった。

こんな日常の密なコミュニケーションがあるからこそ、たとえば今回の東京公演2日目、ライヴ前のリハで軽く確認しただけで「ユーアー・ソー・グッド・トゥ・ミー」をいきなり世界初披露するという離れ業もやってのけられたんだね。ブライアンと彼のバンド。今、とても充実した時期を過ごしているみたいだ。

そういえば、コンサートでのブライアンは、とりあえず前にエレクトリック・ピアノを置いているものの、実際に音を出して弾くのは「イン・マイ・ルーム」と「サーファー・ガール」だけで。あとの曲では、例の“三瓶です”みたいな動きの手振りダンスをしていて。しかも大阪では「イン・マイ・ルーム」でも踊ってて。だもんで、ブライアン、もうピアノ弾けねーんじゃねーの? という声も聞かれますが。弾けますわ。ばりばり。そのビデオの中でも、ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」とかがんがん弾きまくっていたもん。リズム・キープに関しては、やっぱり年齢のせいもあってか、今いち頼りないものの、ハーモニーに関してはいまだ天才ぶりを発揮しているって感じ。

というわけで、こんな幸せの中、あまり他の音楽を聞く気にもならなかったのだけれど。少しずつリハビリしてます。最近、けっこういいアルバムが多いので、よかったよかった。今回ピックアップするのは、お懐かしや、ブレンダン・ベンソン、4年半ぶりの新作だ。デビュー盤は本ホームページ初期、こちらでレビューしてますが。今回も曲によって親友、ジェイソン・フォークナーとコラボレート。12曲中5曲が二人の共作だ。あとはもちろんブレンダンの作品。すべてデトロイトの自宅で録音されたものだとか。前作より哀愁味が増したのは年齢のせいか?(笑)

宅録サウンドと、独特のシニカルな歌詞とがあいまって、“内省的なパワー・ポップ”みたいな。なんか不思議なムードの音楽が生まれていて。ちょっと惹かれる。


その他、最近のお気に入り盤を簡単に紹介しておくと――

26 Days On The Road / The Twangbangers (Hightone)

ご存じビル・カーチェン関連の新作。彼のごきげんなトワンギー・ギターを中核に据えたホンキー・トンキン・ルーツ・ロックンロール盤です。安っぽいっちゃ安っぽいけど。その辺も含めてごきげん。ロード・ハウス系カントリー・ロックの魅力満載だ。

Evangeline Made: A Tribute To Cajun Music / Various Artists (Vanguard)

リンダ・ロンシュタット、ジョン・フォガティ、リンダ&リチャード・トンプソン、デイヴィッド・ヨハンセン、マリア・マッキー、ロドニー・クロウェル、ニック・ロウらが参加したケイジャン音楽へのトリビュート盤。みんなフランス語で歌って、いい感じ。ジョン・フォガティが特にいい味です。

Under Cold Blue Stars / Josh Rouse (Ryko/Slow River)

単独名義では3作目。これは後日ピック・オヴ・ザ・デイにするかも。このページで以前レビューしたシンガー・ソングライターの最新作。人間の奥底のようなものを見つめ続けつつ順調に成長するとともに、当然のこととして暗くなってきてはいるんだけど。でも、美しいです。音楽面でもさらに充実。

Barricades & Brickwalls / Kasey Chambers (Warner)

オーストラリアの女性シンガー・ソングライター。アメリカでのセカンド。ルシンダ・ウィリアムス、スティーヴ・アール、ドワイト・ヨーカムらからの賛辞も寄せられ、前途洋々か。非アメリカ系ゆえのポップなカントリー・ロック/ルーツ・ロック系。

The Albatross / Gary Stier (33rd Street)

あと、輸入盤屋さんで最近よく押しモノになっているこれ。バッファロー・ニッケルの中心メンバーだった人のソロ名義盤だけど。内容はバッファロー・ニッケルのアルバムに1曲足しただけのものです。いいアルバムだけど、内容ほぼ完璧にダブってるのでご注意。

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